自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

奇跡のシンフォニー 2007年

ファンタジックな奇跡の物語

アメリカ、カーステン・シェリダン監督、114分

養護施設で育った11歳のエヴァンはあらゆる音がメロディとして聴こえるという音楽の神童だった。町の騒音も音楽として聴こえるのだった。それは音楽家だった両親から受け継いだものだった。

エヴァンは父と母を捜すために施設を抜け出す。

父親から死産と聞かされていた母ライラは11年以上経ってから息子の行方を捜し始める。父ルイスはライラの想いを胸にニューヨークに向かう。

エヴァンはニューヨークで出会ったストリート・ミュージシャンの子供たちを仕切る男にギターをあたえられ路上での演奏活動を始める。

偶然知り合った牧師はエヴァンの才能を知り、彼をジュリアード音楽院に通わせ、そこでエヴァンは才能を認められる。それが両親と出会うきっかけとなった。

 

「心の耳さえ澄ませば音楽は聴こえる」「音楽はどこからくる」「演奏するのは僕に音楽をくれた人への返事」「音楽を信じている」これがエヴァンの言葉だった。

 

全編に音楽が流れ、音楽への愛にあふれたハートウォーミングな作品だった。

犯罪都市 THE ROUNDUP、2022年

ストレスを吹き飛ばすアクション映画

韓国、イ・サンヨン監督 106分

2008年、韓国のクムチョン署の型破りの刑事マ・ソクトと班長チョン。二人はチェンマイにある韓国の領事館に自首してきた国外逃亡犯を引き取るためにベトナム行を命じられる。

その逃亡犯は凶悪なカン・ヘサンから逃れるためにわざと自首してきたのだ。カン・ヘサンはある男を誘拐して身代金を奪った上に殺してしまう。殺された男の父親はプロの殺し屋たちを差し向けるが、カン・ヘサンたちは皆殺しにして、韓国に逃れる。

 

マ・ソクトとチョンもベトナムから韓国にもどり、事件の真相とカン・ヘサンを迫ってゆく。莫大な身代金を巡って悪人たちの闘いが続く。

カン・ヘサンたちは銃ではなく、ナイフや斧や鉈をつかい、その残虐性が際立っていた。狂気をはらんだカン・ヘサンは恐ろしいほど強かった。ところがマ・ソクト刑事の巨体と怪力のアクションは半端じゃなかった。

 

ストーリーはシンプルで分かりやすく、コミカルなシーンもけっこうあり、娯楽作品として充分に楽しめる。

この韓国映画には日本映画にはない爽快さと豪快さがあった。そもそも犯罪が絡んだ韓国映画の面白さはどこからくるのだろう。

それでも私は生きていく 2022年

フランスの介護施設事情

フランス、イギリス、ドイツ、ミア・ハンセン=ラブ監督

5年前に夫を亡くしたサンドラは通訳の仕事をしながら8歳の娘リンと暮らすシングルマザーだった。父親ゲオルグは哲学の教師だったが、今はベンソン病のため視力と記憶を失いつつあった。

サンドラは頻繁に父親の元を訪ね、介護していたが、父親がだんだんと衰えてゆく姿を見て、無力感に苛まれていた。

父親は一人ではトイレにも行けなくて、アパートを引き払い、病院、介護施設へと移ってゆく。サンドラは父親の蔵書を処分することになり「本人よりも本を見るほうがパパを感じる。選んだ本から人間性が見える」と言う。

 

そんな時、サンドラは亡くなった夫の旧友クレマンと再会して、二人はたちまち恋に落ちる。しかしクレマンには妻子がいた。「愛人でいるのは耐えられない」とサンドラは苦しむ。

記憶が失われ、娘のことが分からなくなってゆく父親と、クレマンとの新しい恋、その狭間で苦しみながら生きてゆくサンドラ。悲しみと喜び、それが人生だった。

 

かつては尊敬され、慕われていた父親ゲオルグの惨めな姿を見ると、サンドラは耐えきれずに自然と涙を流す。サンドラ役のレア・セドゥはボーイッシュでありながら、エロティックであり、悲しみに耐える姿が胸を打つ。