自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ミッドナイト・サン 2018年

太陽の光に触れてみたい

アメリカ、スコット・スピアー監督

 ケイティは太陽の光に当たることが出来ない100万人に一人という難病、色素性乾皮症(XP)だった。幼いころから家の中に閉じこもり、太陽の当たる場所に出ることがなかった。彼女の話し相手は父ジャックとたった一人の女友達モルガンだけだった。

7歳の頃から家の前を通る少年チャーリーを窓越しに見つめていた。彼がスケボーに乗った日も、プールに通っていた時も、坊主頭になった時もじっと見つめていた、叶う事のない片思いだった。

それから10年、ケイティは17歳になり、夜の駅のホームでギターの弾き語りをしているとチャーリーがあらわれ、やがて二人は恋に落ちる。

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チャーリーと知り合って、初めてのデイト、初めてのパーティ、初めてのライブ、初めて見るシアトルの夜景・・初めて経験するたびにケイティの世界が広がってゆく。それは太陽のように光り輝くものだった。

 

初めての経験が多い若い時ほど時間は緩やかに流れ、初めての経験が少なくなると時間は速く過ぎ去ると言われている。ケイティは緩やかに流れる時間のなかで生きる歓びを精一杯、満喫しただろう。そして彼女の願いだった太陽の光に触れ、それを全身に浴びた。

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ギター弾き語りのケイティ、その曲も歌詞も物語によく似合っていた。何のヒネリもなくストレートでそれほど感動することもなかったが、不思議とそれがかえって心地いい。

太陽の光が届かない夜、静かに味わう映画だと思った。

カルト映画が教えてくれたこと

1982年「バスケット・ケース」

もう一度観たいと思う映画はけっこうあるものだが、それが名作、傑作だとは限らない。もちろん懐かしいということもあるが、当時の自分はどうしてこの映画に惹かれたのかを確かめたいという気持ちもある。

 

その一つがフランク・ヘネンロッター監督の「バスケット・ケース」で、破天荒で奇妙な物語だった。もちろん名作というものではなく、むしろ低予算のB級作品なのだが、カルト的な人気があるらしくて続編も撮られている。

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健康な若者ドウェインとその兄で奇形児のベイアルという双子の復讐物語。出産時に母親は死に、二人はわき腹で癒着した一つの身体の双生児として産まれた。

父親は二人を化け物と呼び、彼らが12歳の時に二人の医師と一人の獣医に分離手術を依頼する。手術で二人は分離されるが弟のドウェインは正常な少年になり、兄のベイアルは醜い奇形の身体のままゴミ袋に入れられて捨てられる。

何年かが経ち二人は父親を殺し、3人の医師を捜しだして一人一人と殺してゆく。

 ドウェインはバスケット・ケースに異様な姿をした兄のベイアルを入れて運んでいた。やがてドウェインに恋人が出来るとベイアルは嫉妬にかられて・・・。

 

当時、東京に住んでいた私は失意のどん底で、どちらに進めばいいのか迷っていた。ところが世の中にはこんな奇妙な映画を撮る人もいるものだと、変に感心してどこか救われた気持ちがした。そして平凡な考えだが「どんなことをしてでも生きていける」と吹っ切れ、余分な力が抜けた。再鑑賞してあの頃を思い出した。

 

力を与えてくれる映画と余分な力を取り除いてくれる映画があるような気がした。

スモーク 1995年

一人でも信じるものがいればその物語は真実になる

アメリカ、日本、ドイツ ウェイン・ワン監督

 1990年夏、ブルックリンの煙草屋のオーギーは14年前から同じ時刻、同じ街角で写真を撮っていた。もう4000枚をこえている。

近くに住む作家のポールは数年前、妻が銀行強盗の流れ弾に当たって死んでから執筆ができなかった。ある日、オーギーの写真を見ていると、その中に生きていた頃の妻エレンが写っていた。ポールは思わず涙を流してしまう。 

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18年前にオーギーを捨てて別の男と結婚した眼帯の女ルビーが、薬物中毒になっている娘を助けるために金を借りに来る。

強盗が落とした大金を拾った黒人の17歳の少年ラシードは12年前に失踪した父親を捜していた。

それらの人びとが織りなすブルックリンの下町の物語。

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ポールは二―ヨーク・タイムズからクリスマス・ストーリーの執筆を依頼されるが、書けなくて悩んでいた。オーギーは「いい話がある」と写真を撮り始めたきっかけを語りだす。

ポールはその話を聞いて「いいことをしたな」「嘘をついて物を盗んだんだぜ」「でも彼女を幸せにした・・書いていいのかい」「秘密を分かち合えるのが友達だ。それができない友達なんて友達といえるのかい」

ポールはタイプライターに向かい「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を打ち始める。

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原作、脚本はポール・オースターで、味わい深いエピソードが彼の小説的世界をみせてくれた。エピソードの一つ一つに胸がつまり、涙が溢れそうになる。

 

やがてトム・ウェイツの歌う「Innocent When You Dream」が聴こえてくる。

「世の中で大切なものは煙のようなもの」・・名作だった。