自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

読み書きができるということ

7億5000万人

映画「愛を読むひと」は主人公の女性が文盲だったということがとても衝撃的だった。第二次大戦前後のドイツ、若い女性ハンナは本を朗読してもらうことが好きだった。彼女は文字を読むことができなかった。

彼女は裁判での筆跡鑑定を断り、文盲であることを知られるより無期懲役を選んだ。

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ボブ・グリーンのエッセイ集「チーズバーガーズ」にも読み書きのできない男がでてくる。

男は55歳の配管工で子供のころから読み書きを習ったことがなかった。結婚したが妻にも子どもたちにもそれを隠してきた。職場でも家庭でも誰にでも、恥ずかしくて文盲だと言えなかった。

彼は字が読めないことを知られるより仕事を失うことを選んだ。

 

信じられないかもしれないが、私は読み書きのできない女性と仕事をしたことがある。彼女は書類を必ず、家に持ち帰っていた。誰かに書いてもらっていたのだろう。彼女は文盲であることを隠していたので私は誰にも言わなかった。

 

文盲だったある女性が読み書きを学ぼうと決心した。読み書きができるようになっての帰り道、彼女は夕焼けがこんなにも美しいものだと初めて気づいた、という話を聞いた事がある。

彼女は今まで何度も夕焼けをみていたのにこれほど美しいものとは思わなかった。不思議な気もするが、なんとなくわかるような気もする。

 

2017年の時点で読み書きのできない人が世界には7億5000万人いると言われている。

ルート・アイリシュ、2010年

戦争の民営化

イギリス、フランス、ベルギー、イタリア、スペイン、ケン・ローチ監督

ファーガスは親友のフランキーに、イラクで民間兵になれば多額の報酬が約束されると勧誘して、二人は戦争請負会社の民間兵になった。民間兵は軍人よりも凶暴だったが「オーダー17」という免責特権があった。それは誰を殺しても無罪放免になるというものだった。 

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2007年、リヴァプール、ファーガスは留置場に入っていて、フランキーの助けを求める留守電を聞くことが出来ずに後悔した。その後、フランキーがイラクで亡くなったからだ。

 

フランキーが死んだのはバグダッドから空港へ通じる12キロの道路「ルート・アイリシュ」で、世界で最も危険な道と呼ばれていた。なぜかフランキーはその道路をなんども往復させられていた。「マズイ時にマズイ場所に行く」ようにさせたのは誰なのか。

 

フランキーの死に疑問をもったファーガスはフランキーの妻レイチェルと共に真相を探り始める。殺されたイラクの少年が残した携帯電話の動画に真相が隠されていた。凶悪な民間兵のネルソンたちが携帯電話を奪おうとイラク人ミュージシャンのハリムを襲う。

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短気なファーガスはネルソンがフランキーを殺したと思い込み、拷問して殺す。ところがファーガスは騙されていた。

 ファーガスはお金のために民間兵になった男で、善人というわけではないが、「ある光景が焼き付いている。瓦礫の中から救い出された少女の左足が腱でぶら下がっている、ズタズタだった。毎晩、思い出して眠れない」と民間兵になったことを後悔していた。

 

戦場では兵士は別人のように凶暴になり、いちばんの犠牲者はイラクの民間人だった。ケン・ローチ監督が戦争ビジネスをサスペンスタッチで告発した映画。

アマンダと僕 2018年

エルヴィスは建物をでた

フランス ミカエル・アース監督

 パリでアパート管理人の仕事をしている24歳の青年ダヴィッドは恋人レナと楽しい日々を送っていた。ある日、姉のサンドリーヌがテロ事件に巻き込まれて死んでしまう。彼女には7歳になる娘アマンダがいた。

突然、最愛の姉を亡くしたダヴィッドは姪のアマンダの面倒をみることになる。母を亡くしたアマンダも心に深い傷をおっていた。お互いにどうしていいか分からない状態で一緒に暮らし始める。

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ある日、ダヴィッドがもういらないだろうと思ってサンドリーヌの歯ブラシを捨てると、アマンダは「人の家のことを勝手に決めないで」と怒る。

テロ事件で負傷していた恋人のレナはPTSDで故郷に帰ることになる。レナは「あなたを励ましてくれる人が必要よ」とダヴィッドに言い残して去ってゆく。

ダヴィッドはイギリスに住む20年前に別れたきりの母に会う。アマンダにとっては初めて会う祖母だった。

 

映画の冒頭、英語教師のサンドリーヌはアマンダに「Elvis has left the buildingエルヴィスは建物を出た」の本当の意味を教える。それはいつまでも帰らないプレスリーファンに係員が言った言葉で、「もう終わりだ」という意味だった。 

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ダヴィッドとアマンダはウィンブルドンでテニス観戦をする。スコアが「0―40」になったとき、アマンダは急に泣き出す。母を亡くした悲しみとこれから先の不安から自分は「Elvis has left the buildingもう終わりだ」

ところが試合はデュース「40-40」になった。ダヴィッドは「ほら、まだ終わりじゃない」

 

凄いというタイプの映画ではないが、思いもかけないゆるい直球をど真ん中に投げ込まれ、ストライクを取られた、そんな気分になる映画だった。