自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

狩人の夜 1955年

指に彫られた「Love」&「Hate」

アメリカ チャールズ・ロートン監督

 1930年代、大恐慌の時代、ウェスト・ヴァージニア州の田舎町、ベンは銀行強盗で強奪した1万ドルを娘パールの人形の中に隠し、息子のジョンに在りかを絶対に誰にも話すなと告げた後、逮捕される。

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ベンは強盗殺人で死刑になり、刑務所で同房だった偽伝道師のハリーはその金は未亡人ウィラと子どもたちがもっていると思い、出所後、ベンの家族の住む田舎町を訪ねる。言葉巧みにウィラと結婚して金の在りかを探ろうとするがうまくいかない。

やがてウィラを殺して川に沈めてしまう。ハリーから逃れるためにジョンとパールの兄妹はオハイオ川をボートで下ってゆく。

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暗い夜のこの川下りシーンは寓話的なダークファンタジーを思わせ、そのモノクロ映像の見事さに魅了される。蜘蛛の巣、風に飛ばされる花粉、蛙、兎、亀、梟たちが兄妹の逃避行を見守っている。動物や自然の息吹が聴こえてくる。

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しかしハリーは馬に乗って賛美歌を歌いながらどこまでも追ってくる、「♪頼れ、頼れ、永遠の御手に頼るのだ♪」ジョンは「あの男は眠らないのか」とつぶやく。

兄妹は孤児たちと暮らす信仰の篤い女性レイチェルに助けられる。レイチェルは毅然として偽伝道師のハリーに銃を向ける。彼女はオープニングで「偽預言者に気をつけよ」と語りかけた女性だった。

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 30年代の大恐慌で孤児があふれ、弱者には厳しい世の中だった。偽伝道師が「愛」と「憎しみ」を語り、神への帰依を説く。しかしその男は多くの未亡人を殺してきた異常者だった。

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公開当時、このダークさは理解されなかったが、今は高く評価されている。

 

ゴッドファーザー PARTⅡ 1974年

ある視点から見たアメリカ現代史

アメリカ フランシス・フォード・コッポラ監督

1901年、イタリア、シチリア島から物語は始まる。ゴッドファーザーと呼ばれた父ビトー・コルレオーネの少年時代から、1958年、その息子で父の跡目を継いだマイケル・コルレオーネ、イタリアン・マフィアの抗争を描いた作品。

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ベルナルド・ベルトルッチ監督作品「1900年」は1901年の同じ日に生まれた二人の青年の人生を通して、20世紀初頭、第一次大戦ファシズムの時代、そしてイタリア解放までのイタリア現代史を描いた5時間を超える大作。

奇しくもどちらの映画にもロバート・デ・ニーロが出演していた。

 

20世紀初頭のニューヨークの雑然とした町並みと活気ある移民たちの暮らし、これはコルレオーネ・ファミリーの歴史でありながら、ある視点から見たアメリカの現代史ではないだろうか。しかもアメリカがもっとも自信に満ちた時代だった。

世界中の民族からの移民を受け入れるだけの豊かさと希望があった。しかし権力闘争は民族間で複雑に絡み合い、知恵あるものが勝利者になった。

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50年代のキューバは腐敗した権力者たちの国だった。アメリカの大企業は利権を求めてキューバに進出しようとしていた。その中にマイケルもいた。

しかしマイケルはカストロの率いる反乱軍の自己犠牲の高さをみて、やがて革命が成功するだろうと思い、200万ドルの投資を思いとどまる。

そして59年の新年に革命が成功すると、アメリカの起業家や政治家はキューバから逃げ出してゆく。

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マイケルにとって家族こそがいちばん守るべきものだった。でも妻ケイは子どもたちを残してマイケルの元を去ってゆく。

妻に去られたマイケルは若い頃の家族を懐かしく思い出す。もはや父のビトーが生きたような時代ではなかった。

この映画にあるのはどこか任侠道にも通じる「男の世界」だった。男たちはその大いなる幻影に酔いしれてしまう。

野いちご 1957年

「人との接触を断つ日々」にこの映画はどうだろう

スウェーデン イングマール・ベルイマン監督

 78歳の医師イーサク・ボルイの独白と悪夢で映画は始まる。「人との交流を意図的にさけてきた。だから年老いた今は孤独だ」

死が近づいてきたとき、人は過去を思い出す。過ちと後悔が奇妙な悪夢となってイーサクを悩ませる。生きてきた意味はどこにあるのだろう。

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50年も医学に貢献してきたイーサクは名誉博士号をうける記念式典に出席するために車でルンドに向かう。同行するのは息子エーヴァルドの妻マリアンだった。息子夫婦は離婚寸前だった。ルンドまで14時間の旅。途中でイタリアに行くという若者3人と、憎しみ合っている中年夫婦を同乗させる。

マリアンとイーサクの車中での会話「夫はあなたを尊敬しているが憎んでもいる、お父さまはエゴイストですわ」「あなたが私を嫌っているのは残念だ」「嫌ってなんかいません、哀れなの」・・沈黙。

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医師としてイーサクが初めて開業した町にやってきた。ガソリンスタンドの店主「この辺では皆いまでも先生のお噂をします。世界一いい先生だって」そしてガソリン代を受け取らなかった。マリアンは微笑む。

一人で住む96歳の母親に会いにゆく。マリアンはこの母親をじっと見つめる。そして「冷酷さと孤独、死ぬよりも恐ろしいことだわ、生きながらの死人」と思う。

 

医学に貢献したイーサクを表彰する荘厳な記念式典、シルクハットを被ったイーサクはゆったりと行進する。誰もがイーサクの人生が意味あるものだったと知る。

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式典後のホテルでイーサクは「一緒に旅行してくれてありがとう」とマリアンに礼を言う。「私こそ・・」「マリアン、君が好きだよ」「私もお父さまが好き」

その夜、イーサクはまた夢をみる。しかしそれは悪夢ではなかった。幸せな子どもの頃の夢だった。

人生は野いちご、甘酸っぱい味がする。