夢のような奇妙な世界
ある夜、バスに乗っていた男は記憶を失っていた。覚えているのは林檎が好きだという事だけだった。
世界では前ぶれもなく記憶喪失が起こるという奇病が蔓延していた。医師たちから「新しい自分」という記憶回復プログラムを勧められるが、治った者はいなかった。
回復プログラムとは毎日、送られてくるテープに吹き込まれたミッション・・自転車に乗る、ホラー映画を観る、仮想パーティで友達をつくる、バーで女を誘うといった体験をポラロイドで撮り、アルバムに貼って新しい記憶をつくる事だった。
医師も記憶喪失者も真面目にプログラムに取り組んでいた。その姿はどこか滑稽で空虚だった。
街角では記憶喪失者たちがポラロイドで写真を撮っていた。男は同じようにプログラムに取り組んでいる女性と知り合う。
ミッションでガンの末期患者を看取った男は林檎を「カシャ」と音を立てて美味しそうに食べる。彼はやはり林檎が好きだった。
不思議でよくわからない映画だった。普通ならいつしか眠気を覚えるが、なぜか眠たくならなかった。もしかしたら私は夢をみていたのかもしれない。