西部戦線異状なし 1930年
モノクロ映像が緊迫感を増す
アメリカ、ルイス・マイルストン監督 135分
第一次世界大戦下のドイツ、ある町の学校、そこの教室では老教師が生徒達に愛国主義を吹き込んでいる。進軍の雑音と教師の弁舌に若い生徒達の血潮は燃えて彼らは直ちに出征を志願する。
ポール、アルバート、ケムメリッヒ、ミュラー、ベーム、ピーター達がその中に数えられる。

そして苛酷な訓練の後若者等は戦場へ送り出される。戦線後部の輸送所おいてポール達は最初の戦慄を感じる。塹壕の中でベームは砲音によってヒステリーになる。ケムメリッヒもまた狂って飛び出したため脚部を打ち砕かれる。
ひとり、またひとりとクラスメイトたちが戦死していく。短いカットの繰り返しで物語はすすんでゆく。
ある日の戦闘でポールは砲弾穴へ落ちたが、同じ穴に飛び込んできたフランス兵をとっさに突き殺す羽目になる。そのフランス兵のポケットから彼の妻子の写真が落ち、ポールの胸は痛む。

ポールは行軍中に砲撃を受け負傷、病院へ送られる。やがて休暇をもらった彼は帰郷した。
母校では相変わらず老教師が戦争を讃え、愛国心を説いている。老教師は、ポールに生徒達に戦場での素晴らしい体験談を話して聞かせて欲しいと促す。まるで英雄でも見つめるかのように軍服姿の自分に羨望の眼差しを向けてくる生徒たち。ポールは戦場の悲惨さを語ろうとするが、実際の戦場も知らず、愛国心に興奮状態の生徒たちには伝わる筈も無く、ただ彼らを失望させるだけだった。
ポールはふと飛んできた蝶にそっと手を伸ばすが、身を乗り出したところを敵兵士に狙撃されて死亡する。
この作品は、100年ほど前の映画だが、戦争の非人間性や愚かさを極限までリアルに描き、映画史に残る反戦映画として高く評価されている。
ANORAアノーラ、2024年
ラストシーンの涙の意味は
ニューヨークでストリップダンサーをしながら暮らすロシア系アメリカ人の23歳のアニー(アノーラ)は、職場のクラブでロシア人の富豪の御曹司21歳のイヴァンと出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの報酬で「契約彼女」になる。

パーティにショッピングにと贅沢三昧の日々を過ごした2人は、休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚する。幸せ絶頂の2人だったが、ロシアにいるイヴァンの両親は、息子が娼婦と結婚したとの噂を聞いて猛反発し、結婚を阻止すべく、3人の男たちを彼らの元に送り込んでくる。
イヴァンはアニーを見捨てて逃げ出してしまう。ほどなくして、イヴァンの両親もロシアから到着する。そして無理やり離婚を画策する。
バカ息子のイヴァンは両親に逆らえなかった。イヴァンのバカさ加減が描かれる。アニーは妻として家族の一員になりたかったのにバカ息子にとって結婚はお遊びに過ぎなかった。

カタルシスは最後にやってくる。残酷な現実や喜劇タッチのシーンも多かった。
映画はロマンティック・コメディから始まり、次第にアクションサスペンスやシリアスなドラマへと変化し、中盤は予測不可能な物語だった。シンデレラストーリーのように見えながら社会的な格差や人間関係の力学を描いたダークコメディだった。見事なラストシーンだった。
英国王のスピーチ、2010年
吃音に悩む英国王の物語
イギリス、オーストラリア、トム・フーバー監督 118分
父のジョージ5世が亡くなり、ヨーク公アルバート(後のジョージ6世)は兄のエドワードが離婚女性シンプソン夫人と結婚するため、王冠を捨て、予期せぬ座についてしまった。

彼には吃音症という悩みがあった。彼は何人もの言語聴覚士の治療を受けるが一向に改善しなかった。妻のエリザベスはオーストラリア人のスピーチ矯正のライオネルを訪ねる。ライオネルはユニークな治療法で王の心を解きほぐしてゆく。
ライオネルは吃音は、身体的な問題でもあるが、同時に心理的な問題であることを見抜いていた。だからこそ、心理的なアプローチを上手く機能させるために「対等であること」にこだわっていた。このことが結果としてヨーク公の吃音克服に役立ったといえるだろう。
ライオネルは吃音は生まれつきではないと言います。

第二次世界大戦が始まり、ヒトラーの率いるナチスドイツの開戦に揺れる国民は王の言葉を待ち望んでいた。
ライオネルの友情と妻の愛情に支えられ、王は国民の心を一つにするため戦争スピーチに挑むのだった。ジョージ6世のスピーチもまた多くの英国民を鼓舞した。
丁度、ドイツとの戦争に突入する時代でもあり、本当にその時代の緊張感が感じられます。
ジョージ6世とライオネルの人間模様を描いた物語です。尚、ジョージ6世はエリザベス2世の父親。