自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

國友公司「ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活」

どっこい生きている 西成区の4人に一人が生活保護受給者だが、あいりん地区だけをみれば割合はもっと高く、貧困ビジネスが横行する。元ヤクザやホームレスやシャブ中が徘徊し、社会からドロップアウトした人たちが暮らす町。 新世界国際劇場はオカマの魔窟…

ストックホルムでワルツを 2014年

スウェーデン語で歌う「テイクファイブ」 スウェーデン、ペール・フライ監督 スウェーデンの女性ジャズシンガー、モニカ・デタールンドの半生を映画化した。 1960年頃、ストックホルムから離れた田舎町ハーグフォッシュで電話交換手として働きながらバー…

人生は、時々晴れ 2002年

人生は前にしか進まない イギリス、マイク・リー監督 サウスロンドンの公営住宅に住む労働者階級の3家族を中心にストーリーが展開する。それぞれの家族は問題を抱え、どこか共感できない人ばかりだった。 タクシー運転手のフィル一家、妻ペニーはスーパーの…

林檎とポラロイド 2020年

夢のような奇妙な世界 ギリシア、ポーランド、スロベニア、クリストス・ニク監督 ある夜、バスに乗っていた男は記憶を失っていた。覚えているのは林檎が好きだという事だけだった。 世界では前ぶれもなく記憶喪失が起こるという奇病が蔓延していた。医師たち…

哀しみの街かど 1971年

70年代ジャンキーのリアルな日々 アメリカ、ジェリー・シャッツバーグ監督 堕胎手術で疲れ切ったヘレンは同棲相手の部屋でヤクの売人でジャンキーのボビーと知り合い、彼の優しさに惹かれてゆく。 ボビーはヘレンをニューヨークのニードル・パークと呼ばれ…

村上春樹「品川猿の告白」

現代の御伽草子 作家が寂寥感あふれる群馬県の温泉宿に宿泊する。彼が温泉につかっていると、ガラス戸をガラガラと開けて、猿が低い声で「失礼します」と言って、風呂場に入ってきた。「背中をお流ししましょうか」作家は「ありがとう」と言った。 名前は「…

スウィート・シング 2020年

世界は悲しいけれど幸せな一日はある アメリカ、アレクサンダー・ロックウェル監督 特に好きな映画でもないのに、どうしてもレビューしたくなる作品がたまにある。インディーズ映画「スウィート・シング」はそのような作品だった。 マサチューセッツ州で暮ら…

トムとトーマス 2002年

双子の少年の冒険ファンタジー イギリス、オランダ、エスメ・ラマーズ監督 クリスマスのロンドン、画家の父親と二人で暮らす9歳の少年トーマスには空想上の友達トムがいた。ところがトムは空想ではなく、カーディーン養護施設に実在したのだ。養子だったト…

戦場のブラックボード 2015年

戦争と避難民たち フランス、ベルギー、クリスチャン・カリオン監督 音楽エンニオ・モリコーネ 1940年、ナチスドイツの侵攻で北部フランスの小さな町の住民は市長と共に南部の町ディエップに向かって疎開してゆく。家も財産もすべて捨てて車や馬車や徒歩…

ステップフォード・ワイフ、1975年

いつしか恐怖が沁み込んでくる アメリカ、ブライアン・フォーブス監督 原作はアイラ・レヴィンのSFホラー「ステップフォードの妻たち」 セミプロの写真家ジョアンナは弁護士の夫ウォルターと娘たちと一緒にニューヨークから閑静な田舎町ステップフォードに…

ピーター・ティンクレイジ

異形の役者 先日、鑑賞した2005年のアイルランド映画「名犬ラッシー」にピーター・ティンクレイジが出演していたので驚いた。旅芸人の役でとても魅力的な男を演じていた。 初めて彼を注目したのは「孤独なふりした世界で」だった。 人類が死に絶えた地球…

その壁を砕け 1959年

芦川いづみの可憐さ 日本、中平康監督、脚本新藤兼人、撮影姫田真佐久、音楽伊福部昭 自動車修理工の渡辺三郎は念願の車を買った。新潟で看護婦として働いている恋人のとし江と結婚するために、東京から車を走らせた。 深夜、レインコートの若い男を乗せるが…

マイ・ガール 1991年

11歳の少女の成長物語 アメリカ、ハワード・ジーフ監督 1972年、ペンシルベニア州マディソン、11歳の少女ベーダは葬儀屋を営む父ハリーと痴呆症気味の祖母と3人で暮らしていた。ベーダは明るくて、活発で元気いっぱいの少女で、周囲の大人たちに温…

恋愛小説家 1997年

「嫌われ者」が「いい人」になる アメリカ、ジェームズ・L・ブルックス監督 マンハッタン、人気恋愛小説家のメルヴィン・ユドールは毒舌、潔癖症、しかも強迫神経症で誰からも嫌われる独身の中年男だった。 ある日、隣人でゲイの画家サイモンが暴漢に襲われ…

藤田久美子インタビュー編「松本隆のことばの力」

松本隆・・・60年代後半、ドラマーとして細野晴臣らとバンド活動を始め(後のはっぴいえんど)、作詞も担当、解散後、職業作詞家の道に。 歌を受け取り、それを歌にして返す歌のコミュニケーション・・万葉集からインスパイアされた現代の相聞歌「木綿のハ…

十字砲火 1947年

ヘイトクライムを描いた社会派サスペンス アメリカ、エドワード・ドミトリク監督 第二次大戦が終わり、兵士たちがアメリカに戻ってきた時代、ユダヤ人のサミュエルが殺された。 フィンレイ警部は、その夜、サミュエルが3人の復員兵とバーで酒を呑んでいたこ…

梅切らぬバカ 2021年

剪定しないといい梅の実がならない 日本、和島香太郎監督、77分 占い業を営む山田珠子は50歳の自閉症の息子忠男と暮らしていた。庭の梅の木は私道まで伸びて通行の邪魔になっていた。梅の木を切ろうとすると、忠男はまるで自分が切られるかのように怖が…

アカシアの通る道 2011年

アルゼンチンの「道」 アルゼンチン、スペイン、パブロ・ジョルジェッリ監督 木材を運ぶ長距離運転手のルベンは上司の依頼で仕方なくシングルマザーのハシンタをパラグアイから国境を越えて、アルゼンチンのブエノスアイレスまで送ることになる。ハシンタは…

親愛なる同志たちへ 2020年

30年間、封印されていた3日間の出来事 ロシア、アンドレイ・コンチャロフスキー監督 スターリン亡きあとのフルシチョフ政権下、1962年6月1日、ソビエト連邦、ノボチェルカッスクの機関車工場で大規模なストライキが発生した。 労働者たちが物価高騰…

リストランテの夜 1996年

アメリカン・ドリームという幻影 アメリカ、スタンリー・トゥッチ、キャンベル・スコット監督 1950年代のニュージャージー州の小さな港町、レストランを経営しているイタリア移民の兄弟。兄プリモは頑固な天才肌のシェフ、アメリカン・ドリームを夢見る…

夕霧花園(かえん)2019年

借景のなかの庭園 マレーシア、トム・リン監督 1980年代のマレーシア、女性裁判官のユンリンは連邦裁判官を目前にしていたが、戦時下、日本軍に協力していたという疑いをかけられる。 ユンリンはかつて愛した皇室の造園師中村のスパイ容疑をはらそうとキ…

村上春樹、川上未映子「みみずくは黄昏に飛び立つ」

真実を語るための嘘は嘘でなく物語になる 家に例えると、一階はみんながいる団らんの場所、二階はプライベートなスペース、地下一階にはなんか暗い部屋がある。日本の私小説が扱っているのはこのあたり。 この家にはさらに地下二階があってここが村上の小説…

少年時代 1990年

軍歌以外の歌を知らない時代 日本、篠田正浩監督、脚本山田太一、撮影鈴木達夫、美術木村威夫 昭和19年、夏、東京の小学5年生の風間進二は富山の伯父のもとに疎開する。風泊(かざどまり)の戦前の駅舎や日本家屋や雪景色が美しい。 進二はすぐに地元のガ…

パプーシャの黒い瞳 2013年

歴史上初めてのジプシー女性詩人の生涯 ポーランド、ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ監督 1910年、女の子が産まれた、母親はパプーシャ(人形)と名付けた。 21年、パプーシャは文字を学ぶ、25年、無理やり結婚させられる、39年…

スティルウォーター 2021年

ビルが異国で得たもの、失ったもの アメリカ、トム・マッカーシー監督 フランス、マルセイユに留学中だったアメリカ人女性アリソンはルームメイトの殺害犯として5年間、刑務所に収容されていた。油田作業員の父親ビルは娘の無実を証明しようと、オクラホマ…

長生きという「病」

有名人の訃報を聞くたびにドアが閉まるように、一つの時代が閉じられていく。 2022年9月13日、映画監督ジャン=リュック・ゴダールがスイスの自宅で自死した。91歳だった。複数の疾患で日常生活に支障をきたしていたという。おそらく生きることに相…

シビル・アクション、1999年

実話の苦さと爽快さ アメリカ、スティーブン・ザイリアン監督 ボストンで仲間3人と弁護士事務所を開いているジャン・シュリトマンは障害裁判専門の弁護士だった。まず採算の取れる訴訟かどうかを考え、そして企業から莫大な示談金を得ていた。その示談金で…

らせん階段 1946年

先駆的な古典スリラー アメリカ、ロバート・シオドマク監督 1906年、馬車が走り、手回しの映写機、ピアノ演奏のサイレント映画が上映されていた時代。ニュー・イングランドの小さな町、3人の女性が絞殺された。 最初は顔に傷のある女、2人目は精神障害…

セブン・シスターズ 2016年

近未来を舞台にした怪作 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー、トミー・ウィルコラ監督 人口増加で食料やエネルギーが不足して、政府は厳格な一人っ子政策(児童分配法)を施行していた。2人目以降の子どもたちは冷凍保存されてしまう。 ある日、7つ子…

稲垣えみ子「寂しい生活」

51歳独身女性の節電生活 女性の書くエッセイはどうしていつも面白いのだろう。 事の発端は原発事故後の節電だった。最初は掃除機から始まった。ほうきと雑巾で間に合った。やがて冷蔵庫をなくすという革命が起こった。 ついには電気というものをほとんどや…