自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

Girlガール 2018年

男の身体に女の心が宿っている ベルギー、ルーカス・ドン監督 ドン監督は2009年ベルギーの新聞のトランスジェンダーの少女がバレリーナになるために奮闘しているという記事からこの映画を思いついた。 トランスジェンダーの15歳のララは本名をヴクトル…

子鹿物語 1946年

開拓者たちがこの国をつくった アメリカ クレランス・ブラウン監督 1878年フロリダ、開拓地で農作業をつづけるバクスター一家、11歳の少年ジョディは父ペニー、母オリーと3人で暮らしていた。 町から離れ、近くにはフォレスト一家が住んでいるだけだ…

シェイクスピアの庭 2018年

すべてのものは塵にかえる イギリス ケネス・プラナー監督 1613年、「ヘンリー八世」を上演中のロンドンのグローブ座が大火災で焼失した。49歳のシェイクスピアは断筆し故郷ストラッドフォードの家族のもとに帰る。 そこでは妻アンと長女スザンナ、次…

淀川長治と沢木耕太郎

「沢木耕太郎セッションズ」より 1991年に「ダカポート」に掲載された沢木耕太郎と淀川長治の対談 映画評論家の批評はほとんど読まないが、沢木耕太郎の映画評だけはよく読んでいた。文章が端正で、どこか感性が私に似ているような気がしたからだ。 「あ…

沈黙は金 1946年

パリの恋とユーモアと粋 フランス ルネ・クレール監督 20世紀初頭のパリ、当時、活動写真とよばれた映画の黎明期。監督のエミールはかつて俳優であり、独身の今も女に不自由していなかった。彼を慕っている青年ジャックは俳優であり、助手、大道具係でもあ…

私の知らないわたしの素顔 2019年

現実の耐えられない軽さ フランス サフィ・ネブー監督 50代の美しい女性、大学教授のクレールは離婚歴があり二人の息子がいた。彼女は精神分析医の治療を受けていた。クレールは過去の出来事を分析医に語り始める。 年下の恋人リュドに捨てられたクレール…

ブラ!ブラ!ブラ! 2018年

アゼルバイジャンのバスター・キートン ドイツ、アゼルバイジャン ファイト・ヘルマー監督 鉄道運転手のヌルランは一人暮らしの孤独な男だった。毎日、決まったように貨物列車を運転していた。密集した住宅の中を走る線路には洗濯物が干されており、男たちが…

内田樹「ひとりでは生きられないのも芸のうち」

「ひとりで生きられない」のは重要な能力 内田さんの夢見る組織は小津安二郎の映画で佐田啓二や高橋貞二、司葉子、岡田茉莉子が勤めているような会社である。 終身雇用・年功序列で社員旅行でロマンスが生まれ、上司(佐分利信)の奥さん(田中絹代)が「う…

ラスト・ディール 2018年

「男の肖像」この男は誰なのか フィンランド クラウス・ハロ監督 ヘルシンキ、老美術商のオラヴィはギャラリーの経営がうまくいかず、店じまいをしようとしていたが、もう一度だけ名画にかかわりあいたいと思っていた。 一人娘から補導歴のある孫息子のオッ…

ルビー・スパークス 2012年

小説の中から登場したルビー アメリカ、ジョナサン・デイトン、バレリー・ファレス監督 高校を中退して19歳で天才作家と呼ばれるようになったカルヴィン、しかしその後の10年間、スランプで一冊も本を書き上げることができなかった。セラピーをうけてい…

レ・ミゼラブル 2019年

人生そのものの格差 フランス ラジ・リ監督 150年前の1862年6月のパリの民衆蜂起、バリケードのなかでは「自由、平等、博愛」をあらわす三色旗が翻っていた。 2018年、サッカーのワールドカップで優勝したフランス、熱狂し凱旋門前で国旗(三色…

コロナのなかの映画館

エンターテインメントにエールを 「映画館で映画を観るのは軽い運動をするのと同じぐらい健康にいい」という海外ニュースがあった。家で観るのはダメだという。暗闇の中で観客たちは繋がっている。 個人的な事情がいろいろ重なって最近は映画館に行くことが…

存在のない子供たち 2018年

社会的に存在しないということ レバノン、ナディーン・ラバキー監督 ラバキー監督のデビュー作「キャラメル」はレバノンのエステサロンを舞台にしたとても魅力的な作品だった。 12歳の少年ゼインはある男をナイフで刺して5年の刑で服役していた。刑務所か…

アルプススタンドのはしの方 2020年

♪この青すぎる空が・・・♪ 日本、城定秀夫監督 夏の甲子園、高校野球の一回戦に出場している母校のためにアルプススタンドに応援にきた女性演劇部員の安田と田宮、元野球部員の藤野、優等生の女学生宮下、吹奏楽部の女性部長の久住、熱血教師の厚木、彼らが…

ペイン・アンド・グローリー 2019年

アルモドバル監督の円熟 スペイン ペドロ・アルモドバル監督 スペインのマドリード、映画監督のサルバドールは背部の痛み。片頭痛など身体の不調など心身ともに疲れ、映画制作から遠ざかっていた。 子供時代の母との思い出や、バレンシア村の出来事、バルセ…

読書の扉をノックする

愉しみの読書 以前は読んだ本を日記(10年日記)にメモしていたが、今はすっかり忘れている。ここ2~3か月(たぶん)の間に読んだ本を思い出す限り書き出してみた。 ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」、河合薫「コロナショックと昭和おじさん社…

カセットテープ・ダイアリーズ 2019年

原題は「Blinded by the Light」光で目もくらみ イギリス グリンダ・チャーダ監督 1980年代のイギリスの田舎町ルートン、だれもが通り過ぎてゆくだけの退屈な町だった。 パキスタンからの移民の子ジャベドは1987年に16歳の高校生になった。町の人…

ラストレター 2020年

岩井ワールドの叙情性 日本 岩井俊二監督 舞台は緑あふれる宮城県、姉三咲の葬儀に参列した妹の裕里、三咲あての高校の同窓会の招待状を手渡された。姉の死を告げるために同窓会に出席するが、姉と勘違いされてしまう。 同窓会で初恋の相手乙坂鏡史郎と再会…

ナンシー 2018年

サイコスリラーの香りがするヒューマンドラマ アメリカ クリスティーナ・チョー監督 パーキンソン病の母親と寂しく暮らす独身女性ナンシーは嘘の常習者だった。悪いたくらみがあるわけではなく、ただ他人に注目されたいだけだった。母親が亡くなりナンシーは…

あなたの名前を呼べたなら 2018年

インド映画の新しい波 インド、フランス、ロヘナ・ゲラ監督 インドの大都市ムンバイ、建設会社の御曹司アシュヴィンの婚約が破談になり、田舎育ちのラトナは傷心のアシュヴィンのマンションで住み込みのメイドとして働くことになる。 ラトナは親の一存で結婚…

阪急今津線の思い出

有川浩の連作短編「阪急電車」は映画化されているが、小説も面白かった。 今津線の8つの駅を舞台にした「いい話」でほっこりとした気分になれる小説だった。この今津線はかつて私の通学路線だった。 「西宮北口駅」当時、まだ西宮球場があった。あまり下車…

FREAKSフリークス 能力者たち

フリークスと人類の戦い 2018年 カナダ、アメリカ、ザック・リボフスキー、アダム・B・スタイン監督 父ヘンリーと7歳の娘クロエは外界との接触を断って隠れてひっそりと暮らしていた。二人は超能力者でそれを知られると殺されるからだ。 見た目はまっ…

クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

幻灯機が映し出す世界 1991年、台湾 エドワード・ヤン監督 台湾映画には韓国や中国や日本映画にはないものがある。それは「懐かしさ」だ。 台湾の風景や暮らしぶりを見ているとなぜかそこに住んでいたような気持ちになる。少年だった頃を思い出し、永遠…

コリーニ事件 2019年

欲しいのは正義だけ ドイツ マルコ・クロツイパイントナー監督 原作は著名な弁護士フェルディナント・フォン・シーラッハの同名小説、短編集「犯罪」「罪悪」は衝撃的だった。 2001年5月、ドイツで30年以上暮らしてきた67歳のイタリア人コリーニが…

オアシス 2002年

二人だけの世界 韓国 イ・チャンドン監督 飲酒運転で清掃員を死亡させてしまった29歳のジョンドゥが出所してきた。前科3犯で社会不適応者の彼は家族の厄介者だった。 実は轢き逃げ犯は兄でジョンドゥはその身代わりに服役していた。 彼は謝罪のために清掃…

ビフォア・サンセット 2004年

いくら話しても話し足りない アメリカ リチャード・リンクレイター監督 1995年の映画「恋人たちの距離(ディスタンス)」の続編。 9年前、ジェシーとセリーヌはウィーンの街を会話しながら夜明けまで歩き続け、半年後の再会を約束して別れた。ところが…

プロジェクト・グーテンベルク 贋札王

すべてがフェイク 2018年、香港、中国 フェリックス・チョン監督 テーマもストーリーもいいのだがもう少し贅肉を絞るようにすれば、もっと面白い作品になっただろう。 タイの刑務所から物語は始まる。投獄されている偽札犯のレイが精巧な切手を作ってい…

森本あんり「宗教国家アメリカの不思議な論理」

神学的な観点がないとアメリカを理解できない 「神は、従う者には恵みを与え、背く者には罰を与える。自分は成功し、恵まれている。だから神は自分を是認している。自分は正しい」という勝者の論理がアメリカを貫いている。 このアメリカ的な精神や論理を露…

CLIMAX クライマックス 2018年

地獄と極楽は紙一重 フランス、ベルギー、ギャスパー・ノエ監督 若いダンサーたちへのインタビューという平凡なシーンから始まる。ダンサーたちは自信満々に将来の夢を語る。 男女22人のダンサーたちはアメリカ公演のために厳しいリハーサルをおこなってい…

ジョジョラビット 2019年

なぜかノスタルジー アメリカ タイカ・ワイティティ監督 第二次大戦末期のドイツ、10歳のジョジョは美しい母ロージーと暮らしていた。父はイタリア戦線で戦っていると聞かされていた。ジョジョは「ヒトラーユーゲント」の団員として毎日訓練に励んでいたが…