自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

2022-01-01から1年間の記事一覧

ピーター・ティンクレイジ

異形の役者 先日、鑑賞した2005年のアイルランド映画「名犬ラッシー」にピーター・ティンクレイジが出演していたので驚いた。旅芸人の役でとても魅力的な男を演じていた。 初めて彼を注目したのは「孤独なふりした世界で」だった。 人類が死に絶えた地球…

その壁を砕け 1959年

芦川いづみの可憐さ 日本、中平康監督、脚本新藤兼人、撮影姫田真佐久、音楽伊福部昭 自動車修理工の渡辺三郎は念願の車を買った。新潟で看護婦として働いている恋人のとし江と結婚するために、東京から車を走らせた。 深夜、レインコートの若い男を乗せるが…

マイ・ガール 1991年

11歳の少女の成長物語 アメリカ、ハワード・ジーフ監督 1972年、ペンシルベニア州マディソン、11歳の少女ベーダは葬儀屋を営む父ハリーと痴呆症気味の祖母と3人で暮らしていた。ベーダは明るくて、活発で元気いっぱいの少女で、周囲の大人たちに温…

恋愛小説家 1997年

「嫌われ者」が「いい人」になる アメリカ、ジェームズ・L・ブルックス監督 マンハッタン、人気恋愛小説家のメルヴィン・ユドールは毒舌、潔癖症、しかも強迫神経症で誰からも嫌われる独身の中年男だった。 ある日、隣人でゲイの画家サイモンが暴漢に襲われ…

藤田久美子インタビュー編「松本隆のことばの力」

松本隆・・・60年代後半、ドラマーとして細野晴臣らとバンド活動を始め(後のはっぴいえんど)、作詞も担当、解散後、職業作詞家の道に。 歌を受け取り、それを歌にして返す歌のコミュニケーション・・万葉集からインスパイアされた現代の相聞歌「木綿のハ…

十字砲火 1947年

ヘイトクライムを描いた社会派サスペンス アメリカ、エドワード・ドミトリク監督 第二次大戦が終わり、兵士たちがアメリカに戻ってきた時代、ユダヤ人のサミュエルが殺された。 フィンレイ警部は、その夜、サミュエルが3人の復員兵とバーで酒を呑んでいたこ…

梅切らぬバカ 2021年

剪定しないといい梅の実がならない 日本、和島香太郎監督、77分 占い業を営む山田珠子は50歳の自閉症の息子忠男と暮らしていた。庭の梅の木は私道まで伸びて通行の邪魔になっていた。梅の木を切ろうとすると、忠男はまるで自分が切られるかのように怖が…

アカシアの通る道 2011年

アルゼンチンの「道」 アルゼンチン、スペイン、パブロ・ジョルジェッリ監督 木材を運ぶ長距離運転手のルベンは上司の依頼で仕方なくシングルマザーのハシンタをパラグアイから国境を越えて、アルゼンチンのブエノスアイレスまで送ることになる。ハシンタは…

親愛なる同志たちへ 2020年

30年間、封印されていた3日間の出来事 ロシア、アンドレイ・コンチャロフスキー監督 スターリン亡きあとのフルシチョフ政権下、1962年6月1日、ソビエト連邦、ノボチェルカッスクの機関車工場で大規模なストライキが発生した。 労働者たちが物価高騰…

リストランテの夜 1996年

アメリカン・ドリームという幻影 アメリカ、スタンリー・トゥッチ、キャンベル・スコット監督 1950年代のニュージャージー州の小さな港町、レストランを経営しているイタリア移民の兄弟。兄プリモは頑固な天才肌のシェフ、アメリカン・ドリームを夢見る…

夕霧花園(かえん)2019年

借景のなかの庭園 マレーシア、トム・リン監督 1980年代のマレーシア、女性裁判官のユンリンは連邦裁判官を目前にしていたが、戦時下、日本軍に協力していたという疑いをかけられる。 ユンリンはかつて愛した皇室の造園師中村のスパイ容疑をはらそうとキ…

村上春樹、川上未映子「みみずくは黄昏に飛び立つ」

真実を語るための嘘は嘘でなく物語になる 家に例えると、一階はみんながいる団らんの場所、二階はプライベートなスペース、地下一階にはなんか暗い部屋がある。日本の私小説が扱っているのはこのあたり。 この家にはさらに地下二階があってここが村上の小説…

少年時代 1990年

軍歌以外の歌を知らない時代 日本、篠田正浩監督、脚本山田太一、撮影鈴木達夫、美術木村威夫 昭和19年、夏、東京の小学5年生の風間進二は富山の伯父のもとに疎開する。風泊(かざどまり)の戦前の駅舎や日本家屋や雪景色が美しい。 進二はすぐに地元のガ…

パプーシャの黒い瞳 2013年

歴史上初めてのジプシー女性詩人の生涯 ポーランド、ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ監督 1910年、女の子が産まれた、母親はパプーシャ(人形)と名付けた。 21年、パプーシャは文字を学ぶ、25年、無理やり結婚させられる、39年…

スティルウォーター 2021年

ビルが異国で得たもの、失ったもの アメリカ、トム・マッカーシー監督 フランス、マルセイユに留学中だったアメリカ人女性アリソンはルームメイトの殺害犯として5年間、刑務所に収容されていた。油田作業員の父親ビルは娘の無実を証明しようと、オクラホマ…

長生きという「病」

有名人の訃報を聞くたびにドアが閉まるように、一つの時代が閉じられていく。 2022年9月13日、映画監督ジャン=リュック・ゴダールがスイスの自宅で自死した。91歳だった。複数の疾患で日常生活に支障をきたしていたという。おそらく生きることに相…

シビル・アクション、1999年

実話の苦さと爽快さ アメリカ、スティーブン・ザイリアン監督 ボストンで仲間3人と弁護士事務所を開いているジャン・シュリトマンは障害裁判専門の弁護士だった。まず採算の取れる訴訟かどうかを考え、そして企業から莫大な示談金を得ていた。その示談金で…

らせん階段 1946年

先駆的な古典スリラー アメリカ、ロバート・シオドマク監督 1906年、馬車が走り、手回しの映写機、ピアノ演奏のサイレント映画が上映されていた時代。ニュー・イングランドの小さな町、3人の女性が絞殺された。 最初は顔に傷のある女、2人目は精神障害…

セブン・シスターズ 2016年

近未来を舞台にした怪作 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー、トミー・ウィルコラ監督 人口増加で食料やエネルギーが不足して、政府は厳格な一人っ子政策(児童分配法)を施行していた。2人目以降の子どもたちは冷凍保存されてしまう。 ある日、7つ子…

稲垣えみ子「寂しい生活」

51歳独身女性の節電生活 女性の書くエッセイはどうしていつも面白いのだろう。 事の発端は原発事故後の節電だった。最初は掃除機から始まった。ほうきと雑巾で間に合った。やがて冷蔵庫をなくすという革命が起こった。 ついには電気というものをほとんどや…

クライ・マッチョ 2021年

野生馬が駆けるシーンの爽快さ アメリカ、クリント・イーストウッド監督 テキサス、1979年、かつてのロデオスター、マイクは落馬事故以来、酒浸りになり落ちぶれていた。 ある日、元の雇い主からメキシコにいる13歳の息子ラファを母親から奪い返してく…

コーカサスの虜 1996年

人生は短く、世界は狭い カザフスタン、セルゲイ・ポドロフ監督 原作はトルストイの短編「コーカサスの虜」 チェチェン紛争下、コーカサスの山岳地帯、ロシア兵のワーニャと准尉のサーシャはチェチェン側の待ち伏せにあい捕虜になる。村の長老アブドゥルはロ…

仁義 1970年

仏教的死生観 フランス、ジャン=ピエール・メルヴィル監督 映画はこんな言葉で始まる。 「賢者ジッダールタまたの名を仏陀は、ひとくれの赤い粘土を 手に取り、それで輪を描いて言われた。 人はそれと知らずに必ずめぐりあう。たとえ互いの身に 何かが起こ…

ドクター 1991年

医者もいつか患者になる アメリカ、ランダ・ヘインズ監督 ジャック・マッキーは優秀な心臓外科医だった。ジャックには妻と息子がおり、大きな家に住み、順風満帆の日々を送っていた。 ところが喉の調子が悪く、MRIや生体検査をすると喉頭がんだと分かる。治…

1/f(エフ分のいち)のゆらぎ

先日、ラジオのDJが「1/fのゆらぎ」の話をしていた。単調な生活の中に少しの変化を加えると快適になる。規則正しい生活のなかに「1/fのゆらぎ」を取り入れるとリラックスするという。 自然界には多くの「1/fのゆらぎ」があふれているともいう。風、波…

1408号室 2007年

原作はスティーブン・キングの短編 アメリカ、ミカエル・ハフストローム監督 「幽霊ホテル10」「幽霊墓場10」などの著書のあるオカルト作家マイクは各地の心霊スポットを取材していた。 ある日、ニューヨークのドルフィンホテルから「1408号室には入…

星になるまで 2021年

可憐なファンタジー 台湾、ツォン・チェン監督 知的障碍者のシャオチンの娘5歳のシンシンは健常者だった。継父にレイプされ娘を産んだチャオチンは市場で働きながら、友人の助けもあって二人はままごとのような暮らしを続けていた。 市場で野菜屑をもらい食…

ペレ 1987年

少年はアメリカを夢見る デンマーク、スウェーデン、ビレ・アウグスト監督 19世紀末、飢餓のスウェーデンからデンマークに移住してきた年老いた父ラッセと少年ペレ。ラッセは「安売りはしない」と言いながらも働くところがなく、労働条件の悪い「石の農園…

横道世之介 2012年

あの日にかえりたい 日本、沖田修一監督、160分 1987年、長崎から上京して、法政大学に入学した18歳の横道世之介。 最初に友達になった倉持、女子学生の阿久津唯、パーティガールで年上の千春、ゲイの同級生加藤、お嬢様育ちのガールフレンド祥子・…

江國香織の短編「デューク」

デュークが伝えたかったこと 映画「僕のワンダフル・ライフ」はレトリバーの子犬が、飼い主のイーサンに会いたくて生まれ変わりを何度も繰り返すという物語。 私と「デューク」との奇跡 クリスマス、21歳の女が泣きながら歩いている。歩きながら女は涙がと…