自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

夕霧花園(かえん)2019年

借景のなかの庭園 マレーシア、トム・リン監督 1980年代のマレーシア、女性裁判官のユンリンは連邦裁判官を目前にしていたが、戦時下、日本軍に協力していたという疑いをかけられる。 ユンリンはかつて愛した皇室の造園師中村のスパイ容疑をはらそうとキ…

村上春樹、川上未映子「みみずくは黄昏に飛び立つ」

真実を語るための嘘は嘘でなく物語になる 家に例えると、一階はみんながいる団らんの場所、二階はプライベートなスペース、地下一階にはなんか暗い部屋がある。日本の私小説が扱っているのはこのあたり。 この家にはさらに地下二階があってここが村上の小説…

少年時代 1990年

軍歌以外の歌を知らない時代 日本、篠田正浩監督、脚本山田太一、撮影鈴木達夫、美術木村威夫 昭和19年、夏、東京の小学5年生の風間進二は富山の伯父のもとに疎開する。風泊(かざどまり)の戦前の駅舎や日本家屋や雪景色が美しい。 進二はすぐに地元のガ…

パプーシャの黒い瞳 2013年

歴史上初めてのジプシー女性詩人の生涯 ポーランド、ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ監督 1910年、女の子が産まれた、母親はパプーシャ(人形)と名付けた。 21年、パプーシャは文字を学ぶ、25年、無理やり結婚させられる、39年…

スティルウォーター 2021年

ビルが異国で得たもの、失ったもの アメリカ、トム・マッカーシー監督 フランス、マルセイユに留学中だったアメリカ人女性アリソンはルームメイトの殺害犯として5年間、刑務所に収容されていた。油田作業員の父親ビルは娘の無実を証明しようと、オクラホマ…

長生きという「病」

有名人の訃報を聞くたびにドアが閉まるように、一つの時代が閉じられていく。 2022年9月13日、映画監督ジャン=リュック・ゴダールがスイスの自宅で自死した。91歳だった。複数の疾患で日常生活に支障をきたしていたという。おそらく生きることに相…

シビル・アクション、1999年

実話の苦さと爽快さ アメリカ、スティーブン・ザイリアン監督 ボストンで仲間3人と弁護士事務所を開いているジャン・シュリトマンは障害裁判専門の弁護士だった。まず採算の取れる訴訟かどうかを考え、そして企業から莫大な示談金を得ていた。その示談金で…

らせん階段 1946年

先駆的な古典スリラー アメリカ、ロバート・シオドマク監督 1906年、馬車が走り、手回しの映写機、ピアノ演奏のサイレント映画が上映されていた時代。ニュー・イングランドの小さな町、3人の女性が絞殺された。 最初は顔に傷のある女、2人目は精神障害…

セブン・シスターズ 2016年

近未来を舞台にした怪作 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー、トミー・ウィルコラ監督 人口増加で食料やエネルギーが不足して、政府は厳格な一人っ子政策(児童分配法)を施行していた。2人目以降の子どもたちは冷凍保存されてしまう。 ある日、7つ子…

稲垣えみ子「寂しい生活」

51歳独身女性の節電生活 女性の書くエッセイはどうしていつも面白いのだろう。 事の発端は原発事故後の節電だった。最初は掃除機から始まった。ほうきと雑巾で間に合った。やがて冷蔵庫をなくすという革命が起こった。 ついには電気というものをほとんどや…