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藤圭子へのインタヴュー 1979年秋、沢木耕太郎(31歳)は引退直前の藤圭子(28歳)にホテルニューオータニのバーでウォッカの杯を重ねながらインタヴューをした。 インタヴューは無事に終わったが、当時、沢木はノンフィクションの「方法」について…
有名であれ 無名であれ「秋のテープ」 沢木はラジオのインタビュー番組で、高倉健とは「北海道の牧場」で吉永小百合とは「「修善寺の温泉宿」中島みゆきとは「新宿のうどん屋」・・そして美空ひばりとは「赤坂プリンスホテル」で対談が行われた(84年3月…
深い海の底に 沢木はラスヴェガスでおこなわれるヘヴィー級、ラリー・ホームズとモハメッド・アリのタイトルマッチのチケットを手に入れてもらえないかと友人に電話するが、すでに完売だった。 ところがその友人の知人がチケットを快く譲ってくれた。その知…
色紙をちぎった絵本 原題は「Little blue and little yellow」 あおくんはパパとママと一緒に住んでいました。お友達もたくさんいました。でもいちばんの仲良しは、きいろちゃんです。ある日、あおくんはママにお留守番を頼まれますが、きいろちゃんと遊びた…
「沢木耕太郎セッションズ」より 1991年に「ダカポート」に掲載された沢木耕太郎と淀川長治の対談 映画評論家の批評はほとんど読まないが、沢木耕太郎の映画評だけはよく読んでいた。文章が端正で、どこか感性が私に似ているような気がしたからだ。 「あ…
「ひとりで生きられない」のは重要な能力 内田さんの夢見る組織は小津安二郎の映画で佐田啓二や高橋貞二、司葉子、岡田茉莉子が勤めているような会社である。 終身雇用・年功序列で社員旅行でロマンスが生まれ、上司(佐分利信)の奥さん(田中絹代)が「う…
愉しみの読書 以前は読んだ本を日記(10年日記)にメモしていたが、今はすっかり忘れている。ここ2~3か月(たぶん)の間に読んだ本を思い出す限り書き出してみた。 ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」、河合薫「コロナショックと昭和おじさん社…
神学的な観点がないとアメリカを理解できない 「神は、従う者には恵みを与え、背く者には罰を与える。自分は成功し、恵まれている。だから神は自分を是認している。自分は正しい」という勝者の論理がアメリカを貫いている。 このアメリカ的な精神や論理を露…
中島らもの世界を測る物差しが見当たらない 規格外の男、中島らもにも師匠がいた。 「先生ごぶさたしています」「おう、中島か、何や」「何やって、先生がこの前、たまには顔でも見せんかバカ、って電話くださったから」「ふうん、で・・・何しにきた」「何…
「単独飛行」はドイツとの戦争体験を15の短篇で構成したロアルド・ダールの自伝。彼は「あなたに似た人」や「キス・キス」の作者で短篇の名手。 20代前半だったダールは1938年から41年までアフリカやギリシアでパイロットしてナチスと戦った。ほと…
感動作、怪異譚、不思議小説、パンク小説、ハートウォーミング、ユーモア小説とバラエティに富んでしかも粒ぞろいの短篇ばかり。 黒井千次「丸の内」、村田喜代子「鯉浄土」、小川洋子「ひよこトラック」、竹西寛子「五十鈴川の鴨」、町田康「ホワイトハッピ…
イスラエルとパレスチナ アブー・オスマーンはその生涯ずっと、穏やかでみなから愛された男だった。自分が死んだらラムレの美しい墓地に埋葬してほしいという事だけが望みだった。 彼は末娘のファーティメを傍らに抱き寄せて立っていた。幼い少女はつぶらな…
是枝裕和監督作品「空気人形」 男たちの性処理のために作られたラブドール「のぞみ」はへそから空気を吹き込むようになっていた。ある日、彼女は人間の心を持ってしまった。そしてDVDショップの青年を愛するようになる。空気人形の淡いエロスを感じさせた。 …
そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア 高野は無政府状態のソマリアを2009年と2011年、取材で訪れた。ソマリアは民主国家「ソマリランド」海賊業の「プントランド」戦国状態の「南部ソマリア」に分かれている。 ソマリ人には昔から拉致文化…
でも、たまにはいいこともあるさ 現代日本の文学を代表する、個性豊かな作家12名が、文学の入り口に立つ若い読者へ向けた中短篇の自選アンソロジー。 村上春樹 村上龍 よしもとばなな 宮本輝 宮部みゆき 浅田次郎 川上弘美 小川洋子 重松清 桐野夏生 山田…
江戸の町にタイムスリップ 自由がないというわけでもないが、どこか監視社会を思わせる息苦しい世の中になった。「正義の言葉」に気が滅入り、山本周五郎の短編を読み返した。 胸を切り裂かれるような哀しみや生きる力を与えてくれる人間賛歌に「真実の言葉…
宇宙からのメッセージ 海辺に流れ着いた壜の中のメッセージはどこかミステリアスな気がする。どのような願いと祈りが込められているのだろう。 孤独な人が瓶のなかに「寂しくて死にたい」というメッセージを入れて海に流した。長い年月の末、たまたま海辺で…
見知らぬ町 一時的に方向感覚を失うという経験はないだろうか。 遊び心でいつもの道ではなく違う道を歩いてみようと思った。ところがその道はこの町に20年以上住んでいる私が知らなかった寂しい道だった。 小さな川があり橋が架かっていた。そこは今まで見…
男派と女派 作家の沢木耕太郎は神田の鮨屋「鶴八」の親方に「いままでの人生で、大事なことというのは男と女のどちらに教えてもらいましたか」と訊いた。「やっぱり男かな」と親方は答えた。「沢木さんはどうなんです」沢木は「僕の場合は・・女のような気が…
少女にまつわる五つの物語 五つの物語とは「オーブランの少女」「仮面」「大雨とトマト」「片想い」「氷の皇国」 舞台となる国も時代もちがう物語だがどこか可憐で妖しい雰囲気が漂い、しかもミステリアスでトリッキー、最後まで惹きつけられる短編集だった…
向田邦子は突然あらわれてほとんど名人 向田邦子の父は未婚の母に育てられた。当時、未婚の母が子供を育てるというのは世間の目もあり、母親にとっても子供にとっても大変なことだった。小学校卒で給仕として保険会社にはいり、苦学して支店長にまでのぼりつ…
ニューヨークを舞台にした34の短編 最後の一編を少しアレンジしてみた 老女優は毎日、プラザホテルで昼食をとっていた。そこは果敢に時の流れに抗しているので彼女のお気に入りのホテルだった。彼女の肌にはしわができカサカサになっていた。もう昔のよう…
北欧ミステリーの圧倒的な面白さ 映画「ドラゴンタトゥーの女」はアメリカ版、スウェーデン版、どちらもとても面白い作品だった。しかし原作であるスティーグ・ラーソンの小説「ミレニアム」には到底及ばない。小説は「ドラゴンタトゥーの女」「火と戯れる女…
合理的な解釈が成り立たない不可解な話 1835年に発表されたナサニエル・ホーソーンの短編「ウェイクフィールド」を世界的な短編作家であるホルヘ・ルイス・ボルヘスは「ホーソーンの短編のうちの最高傑作であり、およそ文学における最高傑作のひとつ」と…
伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生 小説と映画「夜の蝶」のモデルだった通り名おそめ、彼女は銀座と京都を飛行機で行き来し「空飛ぶマダム」と呼ばれた。本名は上羽秀で大正12年(1923年)生まれの古風な京女。 バーのママで後に作詞家、作家になった…
キャサリン・アン・ポーター「クリスマス・ストーリー」 「クリスマス・ストーリー」をすこしコンパクトにまとめてみた。クリスマスの雰囲気を味わってほしい。 私は初めからサンタクロースが好きではなかった。イエスの誕生日の祝祭からイエスを締め出しか…
石井久郎監訳「病(やまい)短編小説集」 「病気」を題材にした短編ばかりを集めたユニークな短編集で書き手がなかなか豪華。 サマセット・モーム「結核」、コナン・ドイル「梅毒」、O・ヘンリー「神経衰弱」、ジャック・ロンドン「ハンセン病」、スコット・…