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映画に関する短いエッセイとその他

極北の怪異(極北のナヌーク)

極北の怪異(極北のナヌーク)

1922年、アメリカ、モノクロ、サイレント、78分、ロバート・フラハティ監督

 100年ほど前のカナダ北部ウンガヴァ地方に住むイヌイットエスキモー)のナヌーク一家が厳しい自然の中で生きていく姿を記録している。

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オープニング、小さなカヤックからナヌーク、妻、子どもたち、赤ん坊、犬までも降りてくる。どこにこれだけの人や犬が乗っていたのか不思議な気がする。

仲間たちと捕獲したセイウチは餓死寸前だったのですぐその場で解体して生のまま食べる。子どもたちは交易所でラードを腹いっぱい食べ、機械油を飲む。極寒の中では脂肪を大量に摂らないと体温を維持できない。

感嘆したのは雪の塊で簡易住居(イグルー)をつくるシーンだ。実に手際よく雪の塊を切り取って組み立ててゆく。1時間ほどで寒さをふせぐイグルーが出来上がる。

そして光を採りいれるために氷の窓ガラスをはめ込む。その中で火を熾し飲み物や食事をとるのだった。生き抜くためにナヌークは子どもに弓矢のつかい方を教える、

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夜の吹雪の中、犬たちは外でじっと寒さに耐えている。凍死を逃れたナヌーク一家はイグルーのなかで静かに眠っている。運が良くて今日は無事に過ごせた。こんな死と隣り合わせの生活では誰もが楽天的になる。

しかし狩りの名人ナヌークすらもこの撮影の2年後に餓死している。残された家族たちはどうなったのだろう。

ニューギニア、アフリカ、南米などにいまなお残る伝統的社会の迷信、奇妙な風習、不可解な行動は厳しい環境下で生きていくための知恵だという。

彼らはほとんど物を持たない。しかしそれは豊かな社会のなかのシンプルライフではなく、常に疫病や飢餓との背中合わせのシンプルライフなのだ。