自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

恋恋風塵

恋風

1987年、台湾、ホウ・シャオシェン監督

オープニング、列車が山間のトンネルを抜けてもまだ濃い緑の山々が続いている。深い山の上の村落、九份の駅に着く。線路を越えてゆく二人、詩情あふれる美しいシーンだった。

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1960年代末の台湾、貧しい山村で育った幼馴染の少年ワンと少女フン、中学を卒業した二人は家計を助けるために台北に働きに出る。辛い仕事の合間に二人は心を通わせていく。

友人たちと歓談する屋台の飲み屋、仲間たちとのささやかな食事、兵役につく男の乾杯をフンが受けると、ワンは少し嫉妬する。ワンのフンへの想いと彼女の可憐さに胸をしめつけられる。手を握ることもない二人の初々しい恋だった。何度も手紙のやりとりが続く。皮肉なことにフンはその手紙を運ぶ郵便配達の男と恋に落ちる。

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山村での子供たちの遊んでいる風景が何度も映し出される。台湾の人たちの暮らしぶりが昔の日本を思わせてどこか懐かしい。

村に戻ってきた傷心のワンに祖父は何も聞かずに淡々と今年の作物の出来具合だけを話す。大自然は愛も恋も哀しみも人のすべての営みを飲み込み、時は移ろいゆく。

西欧の映画のようなドラマティックな感動はこの映画にはない。ただ小さな震えがあるだけで、感動は少し遅れてやってくる。あまりにも淡くて恋とは言えない恋、瑞々しい感性、これがアジアの映画だろう。

「恋は風に舞う塵のごとし」風塵のように散っても なお思いこがれる愛がある。