自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

木靴の樹

1978年、イタリア、エルマンソ・オルミ監督

19世紀末、北イタリアのベルガモの農村、同じ敷地内の共同住宅に4組の農民家族が住んでいた。

トウモロコシなど収穫物の3分の2は地主のものになり、土地も住居も家畜も一本の樹までもすべては地主のものだった。多くの農民たちは貧しく苦しい暮らしだったが、当時はそれが普通の生活だった。もっと貧しい物乞いの人たちもいたのだ。

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早朝の暗いうちから働き、夜は4組の家族たちがロウソクの灯りの回りに集まり、怪談話や昔話、笑い話で一日を終える。もちろん楽しみもあったが、ロウソクの灯りしかない日々の暮らしは薄暗いものだった。

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泣き叫ぶ豚を屠殺し、凍った土地にトマトを植え、祭りの日は旅芸人たちを囲む、新婚夫婦がミラノの修道院へ行き、そこで1歳の孤児の里親となる、ミラノの町ではデモ隊と軍隊の衝突が続き、時代が大きく変ろうとしていた。

ある日、学校に通う子供の木靴が割れ、父親は夜遅くこっそりと出かけて樹を切り、それで木靴を作る。そのことが地主にばれてしまう。たった1本の樹を切ったことで家族は農場から追放される。それは死ねという事だった。

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他の家族はただ神に祈り、去ってゆく家族を陰から見守るだけだった。すべては神の思し召しの世界だった。

19世紀末、北イタリアの農民生活のグラフィティと四季折々の農村の風物詩が、現代に生きる私たちの心の奥に沁み込んでくる。忘れがたい映画だった。