自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

散り行く花 1919年

残酷だった世界に笑顔をみせる

1919年、サイレント、アメリカ、D・Wグリフィス監督

ロンドンのスラム街で父親と暮らす少女ルーシー、彼女は父親の不満のはけ口として鞭打たれる日々だった。

孤独で貧しい暮らしに喜びはなにもなかった。たった一つの花さえ買うことができず、生まれてから笑う事さえ知らなかった。父親から笑顔を強制されると指で口を広げ笑顔にみせたが目には涙があった。

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仏の教えを西洋人にひろめるためにロンドンに渡ってきた中国人青年チェン・ハンも、厳しい現実に夢は破れさった。運命のように二人は出会う。

チェン・ハンはルーシーに純粋の愛を感じ、可憐で小さな人形を贈る。ルーシーは初めての自分の人形を抱きしめて幸せな眠りにおちる。

ところがルーシーは父親に家に連れ戻され、折檻されて死んでしまう。それでも死ぬ直前、これほど残酷だったこの世界に笑顔を見せる。

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チェン・ハンは父親を撃ち殺し、絶望のあまり自殺してしまう。二人の辛く長かった旅路を悼むように中国の梵鐘の響きが聴こえてくる。

どこか遠くの国の幻想譚のようで不思議な味わいをもつ映画だった。 リリアン・ギッシュは薄幸の少女ルーシーを演じたのでなく、少女そのものだった。

 

 「散り行く花」はちょうど100年前の1919年に公開された。当時の映画は映像も物語も単純なもので、今からみれば特に優れた作品というわけでもなく、技術的な古さを感じるかもしれない。しかし当時の観客はこの魂を揺さぶる悲劇に涙をながした。「活動写真」が単なる見世物として終わるのではなく、総合芸術になり得る可能性があると感じただろう。