自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

石井妙子「おそめ」

伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生

小説と映画「夜の蝶」のモデルだった通り名おそめ、彼女は銀座と京都を飛行機で行き来し「空飛ぶマダム」と呼ばれた。本名は上羽秀で大正12年(1923年)生まれの古風な京女。

f:id:hnhisa24:20190603081843j:plain

バーのママで後に作詞家、作家になった山口洋子は手記にこう記している。「鮮やかな紫のコートに、淡い水色の傘の色が映えて、アップに結い上げた襟足がどきりとするほど白い。息を呑むような美しさにぼんやりと見惚れていると、だれかが『あの人が有名なおそめのママですよ』と教えてくれた、ああ、さすがに、思った」

また著者の石井妙子は初めておそめに出会ったときのことをこう書いている。

「私は、柔らかな風が突如、通り抜けるのを感じ、反射的に道路沿いのドアを振り返った。そして、思わず小さな声を上げそうになった。そこに老女がいたのである。・・その立ち姿には隙がなく、しかも、人を誘い込むような柔らかさがあった」

f:id:hnhisa24:20190603081918j:plain
昭和23年、25歳の時京都、木屋町でバー「おそめ」を開き、30年には銀座にもバーを開く。人をもてなすことに喜びを見出し、金銭感覚も商才もなく人を疑う事もない女だった。そのために偽洋酒事件に巻き込まれ、その上、銀座もバーも女給も変化してゆく時代で「おそめ」は徐々に凋落してゆく。

f:id:hnhisa24:20190603081951j:plain

「おそめ」に登場する多彩な人たち・・・川口松太郎服部良一吉井勇、門田勲、大佛次郎小津安二郎川島雄三高見順伊藤整田辺茂一吉行淳之介武智鉄二白洲次郎白洲正子田中角栄中曽根康弘川端康成青山二郎マキノ雅弘、里見弴・・・そして愛人であり、のちに結婚した俊藤浩滋任侠映画のプロデューサーで藤純子の父親)、かれは裏社会とつながっていた。

2012年の日本経済新聞の訃報記事、「上羽 秀さん(うえば・ひで=元バー「おそめ」店主)10月1日、急性呼吸器不全のため死去、89歳。告別式は近親者のみで行った。喪主は長女、高子さん・・・・」

 

おそめは流れるように生きた人だった。彼女は幸せだったのかと問う事にはあまり意味がない。人の一生、特に女の一生は幸不幸というモノサシでは測りきれないものだ。