人生は思い通りにはいかない
1957年、モノクロ、日本、小津安二郎監督
銀行員の杉山は男手一つで二人の娘を育て上げた。姉の孝子は夫と離婚寸前で実家に戻ってきており、妹の明子は遊び人たちと付き合い、その内の一人と肉体関係を結び、妊娠していた。母親はずっと以前に男と出奔して満州に渡っていたが、いつの間にか東京にもどり麻雀屋を営んでいた。
小津監督作品とは思えないような暗く、救いのない悲劇だった。それなのになぜか軽快な音楽にのせて物語はすすんでゆく
一般的に失敗作と言われているが、私はとてもいい作品だと思っている。その理由の一つが有馬稲子、原節子、山田五十鈴、3人の女優の演技によって、いつもの小津作品の世界とは違う世界があらわれ、それは一つの驚きだったからだ。特に山田五十鈴の強烈な存在感には圧倒された。
「東京物語」が陽だとすれば「東京暮色」は陰で、現実の家族とは陰と陽が入り混じったものだろう。今までの小津作品の心地いい家族がどこか絵空事のように見えてくる。
映画の底に流れているものは父親、孝子、明子、母親たちの「どうしようもない」という無力感だった。
家族がバラバラになった後、何事もなかったようにいつも通り仕事に出かける父親の後姿に「人生は思い通りにはいかない」と思わせるものがあった。そこに斎藤高順の美しく軽やかな曲が聴こえてくる。これが大きな救いになっていた。