自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

聖なる鹿殺し 2017年

古代の悲劇が現代ではホラーになる

2017年、イギリス、アイルランドヨルゴス・ランティモス監督

 不穏な空気がこの映画のすべてを包み込んでいた。

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心臓外科医スティーブンは眼科医の妻アナ、娘キム、息子ボブと郊外の豪邸に住んでいた。幸せそうに見えるのだが、どことなくぎこちない家族だった。

患者だった父親が事故死したので気にかけていると言って、スティーブンは16歳の少年マーティンを家族に紹介する。ところが事故死ではなく手術ミスで死んだのだった。

マーティンは礼儀正しくスティーブンやその家族に接するが、彼の目的は復讐で執拗にスティーブンにつきまとう。やがて息子ボブと娘キムは歩くことが出来なくなる。いくら検査してもその原因はわからなかった。マーティンは家族の誰か一人を殺せ、そうでなければ家族全員が死ぬとスティーブンに警告する。

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古代ギリシア悲劇をモチーフにして現代に置き換えたという。そのせいなのか汚れのない処女をささげることで神の怒りを鎮めるという血の儀式を思わせる映画だった。

父親の過ちを家族の一人が償うという不条理からうける衝撃はとても強いものだった。まるで家族の誰かが死ぬのは至極当然のことのように描かれる。しかも両親はそれに逆らうことなく「子どもを殺す」ことを選択する。このサクリファイスの物語に違和感はあるがそれでも人間の根源的な「業」にたじろいでしまう。

 

この映画にはいろいろな暗喩が隠されているのだろうが、よく分からなかった。ただランティモス監督の異様とも思える作家性には驚くばかりだ。