一人でも信じるものがいればその物語は真実になる
1990年夏、ブルックリンの煙草屋のオーギーは14年前から同じ時刻、同じ街角で写真を撮っていた。もう4000枚をこえている。
近くに住む作家のポールは数年前、妻が銀行強盗の流れ弾に当たって死んでから執筆ができなかった。ある日、オーギーの写真を見ていると、その中に生きていた頃の妻エレンが写っていた。ポールは思わず涙を流してしまう。
18年前にオーギーを捨てて別の男と結婚した眼帯の女ルビーが、薬物中毒になっている娘を助けるために金を借りに来る。
強盗が落とした大金を拾った黒人の17歳の少年ラシードは12年前に失踪した父親を捜していた。
それらの人びとが織りなすブルックリンの下町の物語。
ポールは二―ヨーク・タイムズからクリスマス・ストーリーの執筆を依頼されるが、書けなくて悩んでいた。オーギーは「いい話がある」と写真を撮り始めたきっかけを語りだす。
ポールはその話を聞いて「いいことをしたな」「嘘をついて物を盗んだんだぜ」「でも彼女を幸せにした・・書いていいのかい」「秘密を分かち合えるのが友達だ。それができない友達なんて友達といえるのかい」
ポールはタイプライターに向かい「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を打ち始める。
原作、脚本はポール・オースターで、味わい深いエピソードが彼の小説的世界をみせてくれた。エピソードの一つ一つに胸がつまり、涙が溢れそうになる。
やがてトム・ウェイツの歌う「Innocent When You Dream」が聴こえてくる。
「世の中で大切なものは煙のようなもの」・・名作だった。