自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

希望の灯り 2018年

夜の灯りの中で

ドイツ、トーマス・ステューバー監督

 ベルリンの壁崩壊後、旧東ドイツのライプツィッヒ近郊の巨大スーパーマーケットに、どこか陰があり刺青の若い男クリスティアンが、在庫管理の深夜担当として勤めはじめる。指導係のブルーノに仕事を教わり、年上の魅力的な女性マリオンに惹かれてゆく。しかし彼女には夫がいた。

フォークリフトで商品を積み上げ、棚からおろし、運んでゆく、そのフォークリフトの通路が映画の主な舞台だ。

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大きな出来事は一つだけ起こるが、それ以外はほとんど何も起こらない。深夜労働者たちの無気力、ドイツの再統一で時代から取り残された人たちの憂鬱と諦め、指導係のブルーノは長距離トラックの運転手だった旧東ドイツ時代を懐かしむ。

 

大きな感動があるわけでも深く考えさせるわけでもないが、岩に水がしみ込んでくるような映画だった。陽の目をみない、注目もされない仕事で一生を終える人たちがいる。そんな人たちを淡々と、そして少しばかりの温かい視線で見つめてゆく。

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これは風景の映画だろう。しかしそれは美しい風景ではなく深夜のスーパーマーケット内の風景なのだ。寒々と見えるかもしれないが、ここにも黙々と働き続ける人たちがいる。そこに「希望の灯り」と呼ぶほどのものはなかったけれど、それでも「夜の灯り」はあった、

 

深夜、フォークリフトを動かし、クリスティアンとマリオンはじっと耳を澄ます。すると波音が聴こえてくる。二人の心の中に海の波のようにさざなみが押し寄せてくる。

もしあなたが陽の目をみない仕事をしたことがあれば、あなたにもきっと聴こえてくる。