切り裂きジャックとシャーロック・ホームズ
イギリス、ファン・カルロス・メディナ監督
1880年、ロンドン、貧民街ライムハウス地区に「ゴーレム」と呼ばれる連続猟奇殺人鬼がいた。キルデア警部補が捜査にあたり、図書館で「芸術の一分野として見た殺人」という本のなかに殺人鬼が書いたと思われる落書きを見つける。落書きの日の閲覧者を調べると4人の男が浮かび上がってきた。
その4人とは舞台役者のダン・リーノ、哲学者のカール・マルクス、作家のジョージ・ギッシング、劇作家のジョン・クリーだった。キルデア警部補は彼らの筆跡鑑定をしようとする。ところが劇作家のジョン・クリーはすでに死んでいた。女優である妻リジーが毒殺した疑いで逮捕されていた。
キルデア警部補は死んだジョン・クリーこそが殺人鬼ゴーレムではないかと疑う。
ミステリーであり、サイコホラーであり、ある意味ヒューマンドラマでもあった。19世紀末ロンドンの貧民街の陰鬱で猥雑な雰囲気がこの物語によく似合っていた、演芸場の観客たちの卑猥な歓声と芸人たちの芝居だけでも見ごたえ充分だった。
演芸場の女芸人リジーには大きな夢があった。それは人々の記憶の中にいつまでも残る女優になることだった。
回想シーンはやたらと多いが、それも物語を深めていく要素になっている。私たちは犯人探しのミステリーよりも、孤児のリジーが成り上がってゆく姿に惹きつけられる。禍々しいタイトルだが、遊び心のあるとてもいい映画だった。
最後にリジーがいつもの芝居のセリフ「またの登場を!」と声を張り上げると、感動と同時に深い哀しみにおそわれた。