母親の呪縛
1950年代のロンドン、オートクチュールのデザイナーで仕立屋のレイノルズ・ウッドコックは完璧主義者で、社交界から脚光を浴びていた。姉のシリルが彼の良き理解者だった。
彼は田舎町のウェイトレス、アルマと知り合い、理想的な体形の彼女をファッション界に引き入れる。しかしアルマの存在がレイノルズの完璧な仕事とストイックな生活を狂わせてゆく。
独身のレイノルズの心は亡くなった母親に囚われていた。母親の幽霊があらわれ無言でレイノルズを見つめる。まるで彼は呪われているようだった。
ドレスの中に縫い込まれていた「呪われないように」と書かれた布切れ(タグ)を見つけたアルマはそれを剥す。その文字はレイノルズの悲痛な叫びのようだった。
完璧で狂いのない人生を送ってきたレイノルズには平凡な人生の歓びや楽しみがなかった。アルマと一緒に暮らし始めたレイノルズはそれに気づき、今までの生き方に疑問をもつ。
アルマは母親の呪縛から彼を解き放つことができると信じ、ある過激な行動を決意する。レイノルズもそれを受け入れる。やがてアルマは自分の一生を彼の看護に捧げる。
もちろんこの映画はハッピーエンドだ。それはイスラムでも東洋でもない西洋の知性が生んだ究極の愛のハッピーエンドだ。その愛は不条理で狂気を孕み、残酷で美しいものだった。
不条理で奇妙な味わいの小説を読んでいるような映画だった。