自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

四川のうた 2008年

抒情的でノスタルジックな感動作

中国、日本、ジャ・ジャンクー監督

 三国志」の舞台となった四川省成都、2007年、巨大な国営の機密工場である「420工場」が50年の歴史を終えて、取り壊される。そこは映画館もプールも中学校もある独立した一つの社会だった。跡地には高層ビルの住宅「二十四城」が建つという。

計画経済から市場経済へと移行し国営企業が破たんしてゆく時代だった。普通の労働者はどのように生きてきたのか。

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その工場で働いた労働者8人が歩んできた人生を語る。語るのは実際の労働者と役者が演じる労働者、そのコラボレーションが不思議な感動を与えてくれる。ドラマとドキュメンタリー、その虚と実の間に真実がある。

 

工場の労働者だった美しい女性がインタビューに答える。若い頃はアイドルとしてもてはやされたその女性は、なぜか結婚運が悪くて今も独身で一人暮らしを楽しんでいた。「もうアイドルでもないが廃棄物でもない。一人暮らしも悪くない」と言いながらも過去を思い出し涙ぐむ。

 

洒落た車に乗った若い女性は有閑マダム相手のバイヤーとなって成功していた。ある日、故郷に戻り両親のオバケさえもやってこない寂しい暮らしをみた時、両親を想う気持ちがこみ上げてきた。その時、彼女は自分がやっと大人になったと思った。

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山口百恵の髪形が流行り「赤い疑惑」の主題歌「ありがとう あなた」が流れる。映画「芳華ーYouth-」テレサ・テンの歌と同じように新しい時代は歌とともにやってきた。

 

成都への愛情のこもった言葉で映画は終わる。

「消えゆくものを携えながらも、生涯、私が誇りとするのに充分なのだ」