江戸の町にタイムスリップ
自由がないというわけでもないが、どこか監視社会を思わせる息苦しい世の中になった。「正義の言葉」に気が滅入り、山本周五郎の短編を読み返した。
胸を切り裂かれるような哀しみや生きる力を与えてくれる人間賛歌に「真実の言葉」があった。
「おたふく」「おせん」「落葉の隣り」「あだこ」「夕靄の中」「つゆのひぬま」「その木戸を通って」「将監さまの細道」「並木河岸」・・どれをとっても見事な短編だ。
「山椿」主馬は無理強いをせず、作法を重んじる男だった。だからこそ悩むことがあった。従妹の「みち」がこう言った「時には不作法が作法になることもありますわよ」
「野分」又三郎は侍として生きるのが嫌になり、町人になろうとしていた「世の中はどっちにまわっても苦労なものだ、それならせめて自分の生きたいように生きてみたい」
「将監さまの細道」の中で酌婦の「おひろ」が生きることに疲れてこう思う。
「五十年まえには、あたしはこの世に生まれていなかった。そして、五十年あとには、死んでしまって、もうこの世にはいない」
映画化された山本周五郎の小説はたくさんある。ヒューマニストの黒澤明監督には「赤ひげ」「どですかでん」「椿三十郎」があり、その他「青べか物語」「冷飯とおさんとちゃん」「五辨の椿」「どら平太」「雨あがる」「かあちゃん」「ひとごろし」・・・