フィンランド版「ロッキー」
「ロッキー」とは肌触りのまったく違う実話に基づいたフィンランドのボクシング映画。
1962年、パン屋のプロボクサー、オリ・マキは世界タイトル挑戦のチャンスを得る。アメリカのチャンピオン、デビー・ムーアとヘルシンキで試合が行われる。フィンランドで初めての世界タイトル戦だった。国民の期待は高まっていた。
ところが試合を控えてオリはライヤに恋をしてしまい、しかもマスコミ取材や映画撮影やスポンサーとの挨拶などでトレーニングに集中できなかった。減量も上手くいかない。
プロモーター兼トレーナーのエリスはこの試合に全財産をつぎ込んでいた。もし負けたらという重圧でオリは逃げ出してライヤに会いにゆく。そして彼女にプロポーズする。ライヤは喜んでそれを受ける。やっとオリはトレーニングに打ち込みチャンピオンを目指す。
ところが試合は2ラウンドでオリはあっけなく負けてしまう。試合後、騒がしい会場を抜け出してオリとライヤが海岸通りを歩いていると、幸せそうな老夫婦とすれ違う。ライヤは「私たちもあの夫婦のようになれるかしら」
実はその夫婦こそ50年後の本物のオリとライヤ夫妻だった。おそらくフィンランドの観客はそれを知っていたのだろう。
試合に敗れた日、つまり1962年8月17日が「オリ・マキの人生で最も幸せな日」だった。オリ・マキはチャンプの栄光とは違う幸せを見つけた。
まるで肩透かしを食らったような映画だったが、これが本物の人生というものだろう。きめの粗いモノクロ映像がフィンランドの60年代の生活と風景を蘇らせていた。