有川浩の連作短編「阪急電車」は映画化されているが、小説も面白かった。
今津線の8つの駅を舞台にした「いい話」でほっこりとした気分になれる小説だった。この今津線はかつて私の通学路線だった。
「西宮北口駅」当時、まだ西宮球場があった。あまり下車することはなく、ここを経由して十三や梅田の居酒屋で飲んだ。
「門戸厄神駅」神戸女学院の最寄り駅だが、一度も校内に入ったことがなかった。後年、当時女学院の教授だった内田樹さんのシンポジウムを聴きに行ったとき、初めて校内に入った。山中のような佇まいがあり、アカデミックな名門校だった。
「甲東園駅」いつも豪邸横の急階段の裏道を歩いて通学した。労働者階級の家庭に育った私にはその豪邸は別世界だった。一流校ではなかったがファッションセンスのいい学生が多かった。
「仁川駅」定期代が同じだったので、この駅までの定期を買っていた。時々、気分転換にきれいな水の流れる川沿いの道を歩いた。
「小林駅」田舎町の駅のような寂しいホームだった。ここに友人の下宿があって、数人で泊まりに行った。寒い日でホームこたつのなかに電熱器を入れ、全員が足を突っ込んで寝た。今思うと火事になることもなく、火傷もしなかったのが不思議だ。
「逆瀬川駅」友人の実家があり何度か訪ねた。とても環境の良いところで将来はこんな町に住みたいと思ったが、夢は叶わなかった。
「宝塚南口駅」ほとんど下車することはなかったが、映画館があって「夕陽のガンマン」を観た。
「宝塚駅」近くに有馬があるせいなのか駅前はどこか田舎の温泉町、行楽地を思わせた。今は町が大きく変わっている。
どの駅ももう思い出の中にしか存在しない。