自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ペイン・アンド・グローリー 2019年

アルモドバル監督の円熟

スペイン ペドロ・アルモドバル監督

スペインのマドリード、映画監督のサルバドールは背部の痛み。片頭痛など身体の不調など心身ともに疲れ、映画制作から遠ざかっていた。

子供時代の母との思い出や、バレンシア村の出来事、バルセロナでの同性愛の恋人との破局など回想に浸っていた。32年ぶりに彼の作品の回顧上映があり、喧嘩別れした俳優に会いに行く。

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老境にはいると人は過去を振り返る。過去の記憶、母との思い出、身体の痛み、老いの予感、恋人との別れ、映画への情熱、つまりこの映画にあったのはサルバドールの人生のすべてだった。

 

ある日、サルバドールは思いもかけなかった過去を知る。一枚の絵を偶然見つけたことだった。それは椅子に座り本を読む少年時代の自分の姿を描いた絵だった。その絵の裏にはサルバドールが文字を教えていた職人の感謝の言葉が書かれていた。

サルバドールに映画への情熱が湧いてくる。

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やがて過去と現在、映画と現実が溶け合った幻想的ともいえるラストシーンを迎える。

 

今までのアルモドバル監督作品のような胸に突き刺さるような物語ではなく、どこか円熟味を思わせる丸みを帯びた作品だった。長い年月の痛みや歓びの中で見つけた人生賛歌が聴こえてくる。

 

いつもながら構図と色彩が素晴らしく、何度も鑑賞したくなる見事な作品だった。