アゼルバイジャンのバスター・キートン
ドイツ、アゼルバイジャン ファイト・ヘルマー監督
鉄道運転手のヌルランは一人暮らしの孤独な男だった。毎日、決まったように貨物列車を運転していた。密集した住宅の中を走る線路には洗濯物が干されており、男たちがテーブルを出してゲームをし、子供たちが遊びまわっていた。列車が通過するたびに犬小屋から少年が飛び出し、危険を知らせる。
定年を迎えたヌルランは最後の運転で物干しロープから外れた青いブラジャーを列車がひっかけていたことに気づく。
一度は捨てた青いブラジャーを持ち主に返そうと、ヌルランは家々を訪ね歩く。
やがてヌルランは青いブラジャーの持ち主を探し当てる。でもそこにラブロマンスがあるわけでも、彼が恋に落ちるわけでもない。その代わり彼はもうひとりぼっちではなくなる。なぜなら「家族」ができたからだ。
それは青いブラジャーが運んできた幸せだった。
列車が住宅地を走るシーンは上海で、他のシーンはアゼルバイジャンで撮影されたのだろう。だから線路沿いの住宅地もあれば広々とした草原もあり、町の女たちはとても個性的で陽気だった。
どこの国でもない不思議な土地のファンタジーだった。
映画は効果音だけで一切、セリフがなかった。それでもストーリーはよくわかる。娯楽作でも芸術作でも感動作でも社会派作品でもないがどこか気になる作品だった。たまにそんな映画に出会うことがある。
それは人との出会いによく似ている。つまり小説「忘れえぬ人々」の映画版というわけだ。