どのような人生もミステリアス
2019年、アメリカ、ライアン・ジョンソン監督
世界的なミステリー作家ハーラン・スロンビーは莫大な財産を抱え、大邸宅に住んでいた。85歳の誕生パーティの翌日に、彼の部屋で遺体として発見される。
謎の人物から調査の依頼をうけた名探偵ブランは警察官と共に捜査を始める。ハーランの子供たちや家族、看護師、家政婦、屋敷にいた全員を容疑者として証言を聞き取る。
警察は自殺だと断定していたが、ブランは真相を探ろうとする。
ところが殺人の企みはあったが、ハーランは殺されたのではなかった。殺人事件でなかったが本格的なミステリーの面白さはたっぷりだった。
ミステリーの面白さは謎や疑問から真実へと近づいてゆく過程にあると思う。そこには謎や疑問さえあればいいのであって、必ずしも殺人事件は必要ではない。
アガサ・クリスティーの小説を彷彿とさせる映画だが、ただ舞台がイギリスではなくアメリカだったので、移民が重要な意味をもっていた。
クリスティの傑作「春にして君を離れ」はとても衝撃的な小説だった。ある中年の女性が旧友の一言から、夫と子供たちに恵まれた幸せな生活にふと疑問を持つという怖い物語だった。
この小説には殺人どころか、そもそも何の事件も起こらない。正確にはミステリーとは言えないかもしれないが、「ナイブズ・アウト」と同じようにミステリーの面白さがいっぱいだった。
平凡と思えるような人も、そしてどのような人生もミステリアスだ。