血と暴力の国
1980年、メキシコとの国境近くの西テキサス、麻薬がらみの殺人現場から200万ドルを奪ったベトナム帰還兵ルウェリン、その200万ドルを取り戻そうとする不気味な殺し屋アントン・シガー、さらに彼らを追う老保安官エド。
ルウィリンとシガーの凄まじい抗争と殺伐とした風景が私たちを正気でない世界に誘い込んでゆく。
異様な凶器エアガンをつかう殺し屋シガーの行動はまるで爬虫類のような凶暴さをもち、彼の殺しには意味も原因もなかった。
シガーはルウェリンを殺した後、その妻を殺しに行く、「私を殺しても何の意味もないわ」と妻が言う。「そうかもしれないが、約束したんだ」シガーの行動規範は異常なものだった。
シガーと雑貨店主との会話はもはや会話ではなかった。会話ではない会話を聞いていると鳥肌がたつような恐怖が襲ってくる。そこには人間のコミュニケーションというものが存在しなかった。
保安官エドはもう時代についていけなかった。古き良き時代は去ってしまい、もう戻ってはこない。「最近の犯罪は理解できない。理解できないものに直面したくない。新しい犯罪を誰も止められない」
彼は保安官を続けられないと思った。
時代はアメリカに狂気をもたらした。もはや老人たちが懐かしむ国はどこにもない(No Country for Old Men)
だがこれはアメリカだけではない。否応なく時代は変わりゆくものだ。
トラウマになりそうな見事な映画だった。