暴力と寓話
チェコ、スロバキア、ウクライナ、バールラフ・マルホウル監督 169分
森の中、小動物が油をかけられ、火をつけられる。狂ったように叫びながら走り回るが、やがて燃え尽きてしまう。不吉な幕開けだった。
1940年代の東欧、少年はホロコーストを逃れておばさんの家に預けられていた。ある日、おばさんが死に、家は焼けてしまう。少年は故郷の家に戻る旅に出る。
「マルタ」「オルガ」「ミレル」など人名をタイトルにして、旅の途中での九つのエピソードが語られる。
鳥売りの男は小鳥にペンキを塗って空に放った。小鳥は見かけが違っていたために仲間の鳥たちから攻撃され、傷つき墜落して死んでしまう。見かけの違う少年は不幸を呼ぶと言われ、村人から攻撃される。
原題は「The Painted Bird」
「ヴェネツィア映画祭で上映中にあまりにも残虐すぎて途中退場者が続出した」と言われるが、モノクロ映像が土俗的な寓話を感じさせた。私にとっては最後まで惹きつけられる作品だった。
戦争は狂気と死を孕んでおり、人は生きるために暴力をふるう。
男を撃ち殺した少年は一言も喋らない。やがて父親が迎えに来るが、自分を捨てた父を許せなかった。父はそうするしかなかったのだと言い、少年に「自分の名前も忘れたのか」と訊く。少年は黙ったままだった。
しかしバスの中で父の腕にユダヤ人収容所の数字の刺青を見た時、父も「The Painted Bird」だったのだと気づく。そして少年はバスの窓に自分の名前を書く。「ヨスカ」と。