自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

ライトノベルの衝撃

鳥取県境港市の中学校、13歳の山田なぎさのクラスに美少女の転校生がやってきた。海野藻屑(もくず)で自分のことを「ぼく」と言い、海からやってきた人魚だという。

 

父親はかつての有名な歌手、海野雅愛だった。デビュー曲「人魚の骨」は一番と二番はファンタジックなのだが、三番はなんと人魚を刺身にして食べてしまうという歌詞だった。そこに雅愛の「異常な愛」があった。 

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藻屑は父親から虐待を受け身体障害者になっていたが、ストックホルム症候群なのか、父親のことが好きだった。藻屑は「好きって絶望だよね」と自分の過ちに気づいていたがどうしようもなかった。

 

一方、なぎさの家は母子家庭で生活保護と母のパート収入だけという苦しい生活で、その上、兄が3年前から引きこもりだった。

なぎさは中学校を卒業したら、自衛官になって兄を養うつもりだった。なぎさと藻屑に奇妙な友情が芽生える。

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ふたりは必死になって自分の境遇と戦っていた。しかしなぎさも藻屑も大人のように敵を撃ち抜く「実弾」を持っていなかった。

砂糖菓子の弾丸では敵を倒せない。子どもたちは誰が敵なのかもよく分からないまま、世界を相手に砂糖菓子の弾丸を撃ち続けている。

 

やがて山の中腹で海野藻屑のバラバラ遺体が発見される。発見したのは山田なぎさだった。

 

私たちは「読み終わって、強く、張り裂けそうなほどの悲しみと、同時に浄化を体験」する。桜庭一樹はあとがきで「不思議な本です」と書いている・・私もそうだと思った。