自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

竜二 1983年

今日もドスの雨、刺せば監獄、刺されば地獄

日本、川島透監督

新宿、山東会の幹部、花城竜二は舎弟の二人に賭博場を仕切らせて、優雅な暮らしを続けていた。竜二には別れた妻と幼い娘がいた。彼はヤクザの生活に不安を感じ、落ち着かなくなってきた。

夫婦で居酒屋を営んでいる昔の兄貴分関谷を訪ねる。関谷は女房や子供のために堅気になったという。

やがて竜二も堅気になって妻と娘と小さなアパートで暮らし始める。

関谷に紹介してもらった酒屋の配達の仕事につく。

朝、妻と娘に「いってらっしゃい」と見送られ仕事に出かけ、仕事が終われば風呂上りにビールを飲む。ささやかだけど三人で暮らせる幸せをかみしてゆく。

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しかしいつしかその生活がいかにも惨めなもののように思えてくる。妻は安月給のため家計のやりくりに苦労していた。

 

老人たちがゲートボールを楽しんでいる何気ないシーンがある。そこに竜二は自分の将来を見たのか、それともこんな穏やかな世界では生きてゆけないと思ったのか。

 

ある夜、アパートの窓を開け、外を見て「この窓からは何も見えないや」と竜二は言う。その言葉に胸打たれる。

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仕事が終わって、商店街を通りアパートに帰る途中、大売り出しの肉屋の行列に妻と娘が並んでいた。その姿を見た時、竜二の目に涙が浮かぶ。

呆然としている竜二に気づいた妻は彼がヤクザに戻ることを直感する。そして同じように目に涙を浮かべ、娘に言う「おばあちゃんのところに帰ろうか」

 

場面は一転する。ヤクザに戻った竜二が白いスーツを着て、夜の新宿を歩いてゆく。

萩原健一の「ララバイ」が聴こえてくる。「♪その無邪気な澄んだ瞳 夢見ている幼い子 元気でいるかい 友達いるかい・・逢いたくて気がめいる オモチャあるかい 泣いたりするかい・・♪」

 

瀬戸内の穏やかな海より、太平洋の荒波を求める男たちがいる。