自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

無法松の一生 1943年

遠い明治の幻影

日本、稲垣浩監督

明治30年、九州小倉、富島松五郎、彼は無法松と呼ばれる喧嘩っ早い人力車夫だった。ある日、怪我をした少年敏雄を助け、家に送り届ける。そこは陸軍大尉、吉岡小太郎の家で夫人のよし子がいた。

吉岡は突然の病気で亡くなってしまう。よし子は松五郎を頼りにし、無法松もまたよし子夫人と敏雄のことを大切に思い始める。

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地道の広い通りと仕舞屋の町並み、行きかう着物姿の人たち、子どもたちが竹馬で遊ぶ姿、それらの風景はもう見られなくなった。

何度も人力車の車輪の回るシーンが映し出される。それは時の流れ、歳月の経過をあらわすものだが、無法松の生きることへの躍動感をも感じさせた。

 

少年だった無法松が継母に虐められ、父親を訪ねて長い道のりをゆく幻想的なシーンや提灯行列の夢幻の美しさ。

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この映画の白眉は長い間、誰もが聞くことのなかった祇園太鼓を無法松が打つシーンだった。流れ打ち、勇み駒、暴れ打ち・・その逞しいリズムが高揚感を生み出す。

豪快と哀愁の松五郎の一生は幻灯機で映し出された明治の幻影のようだった。

 

戦時中の映画で内務省の検閲で削除されているシーンがあり、ストーリー展開がスムーズでなかったが、それでも明治の雰囲気が伝わってくるいい映画だった。