自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

燃ゆる女の肖像 2019年

魂を揺さぶる民族音楽とヴィヴァルディ

フランス、セリーヌ・シアマ監督

18世紀フランスの孤島、女性画家のマリアンヌは貴婦人から結婚のために娘エロイーズの肖像画を描くように依頼される。姉は結婚を強要され自殺し、エロイーズもまた結婚を拒んでいた。

 

マリアンヌは画家であることを隠して散歩の相手としてエロイーズを観察し、肖像画を描いた。しかしその肖像画にはエロイーズの本当の姿が描かれていなかった。

 

貴婦人が留守の5日間の間に完成させようと再び描き始める。画家とモデルはお互いを観察していた。二人の視線が交差し燃え上がり、それが恋になり愛になってゆく。

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夜、お祭りで島民たちが手拍子で歌う民族音楽が見つめあう二人の感情を高めてゆく。焚火でスカートが燃えてもエロイーズは悠然とマリアンヌを見つめる。

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マリアンヌ、エロイーズとメイドのソフィはギリシア神話の「オルフェウスの物語」を読む。オルフェは冥界から妻を連れだすが、「振り返る」ことを禁じられたのにもかかわらず振り返ってしまう。そのために妻は再び冥界に引き戻される。

 

後年、マリアンヌは母となったエロイーズと娘の肖像画を見る。その絵の中でエロイーズは「オルフェウスの物語」の28ページを指さしていた。そのページにはマリアンヌの自画像が描かれていた。

「あなたを忘れはしない」と言っているようだった。

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最後の再会は劇場だった。エロイーズはヴィヴァルディの「夏」を聴きながら、過去を思い出し、涙をながし笑顔を見せる。

しかし彼女は同じ劇場にいたマリアンヌを見ようともしなかった。オルフェのように「振り返る」ことをしなかった。

 

繊細で静かな感動を呼ぶ優れた作品だった。