幸運の十字架
テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督
北マケドニアの小さな町、32歳のペトルーニャは大学を出ているのにまともな仕事もなく、太った体形で美人でもなく、恋人もいなかった。
就職の面接を受けた帰り道、伝統行事「十字架の儀式」に出くわす。それは司祭が川に投げ込んだ十字架を取った者に、一年間の幸運が訪れるというものだった。ペトルーニャは何も考えずに川の中に飛び込み、十字架を手に入れた。
しかしそれは男だけが参加できる行事で女は除外されていた。やがて男たちの反発をうけ、警察沙汰になる。男たちから暴力を受け、罵られ、唾を吐かれる。テレビの女性レポーターが「性差別ではないか」と報道する。ペトルーニャは頑なに十字架を返そうとはしなかった。
「どうして女が幸運を手に入れてはダメなの」というペトルーニャの素朴な疑問と、どんな脅しにも屈しない彼女の姿がなぜかユーモラスだった。
警察署長からも脅しを受けるが、若い警官に「君のような勇気が僕にあれば」と言われる。「勇気などないわ、考えずに飛び込んだだけ」
翌朝、ペトルーニャが警察署を去ってゆくとき、寒いだろうと若い警官が自分の上着をかけてやり「電話するよ」・・「いいわ」
とうとうペトルーニャは「幸運」を手に入れた。だから司祭に十字架を渡し、笑顔でこう言った「あなた達にも幸運を」