自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

私が棄てた女 1969年

60年代の風俗映画

日本、浦山桐郎監督

自動車の部品会社に勤める吉岡努は専務の姪マリ子と恋仲だった。吉岡は出世のためには手段を選ばない野心家だった。

ある夜、クラブの女から森田ミツのことを知らされ、7年前の1961年春、大学生時代の出来事を思い出す。雑誌のペンフレンドの交際欄で福島県から出てきた18歳の田舎娘ミツと渋谷ハチ公前で待ち合わせをした。

吉岡は学生運動に青春を燃やし挫折した大学生で、ミツは教養もなく美人でもない貧しい女工だった。

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やがて吉岡はミツと肉体関係を結ぶ。しかし吉岡はこの関係が続くことを怖れて、ミツを棄てて逃げてゆく。絶望のあまりミツは中絶をした。

 

「ミツは優しい、優しいというのは弱いということだ」と吉岡は言い、優しさをすてて出世の階段を上る。やがて吉岡はマリ子と結婚する。

当時の歌謡曲やドドンパ、歌声喫茶、老人ホーム、女工学生運動など60年代の都会的な風俗映画のようだった。

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時代の中で息づきながら時代を超えてゆくことのできなかった映画だと思った。ただラストシーンの不思議な明るさから、この映画にはその後の日本を予感させるものがあった。

 

70年代に入り、日本は経済的にも文化的にも急速に豊かになった。日本の転換期だった70年代、私たちは何を「棄て」そして何を「得た」のか。