自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

羊飼いと風船、2019年

チベット語族の世界

中国、ペマ・ツェテン監督

チベット族自治州の大草原、夫タルギュと妻ドルカルの間には3人の息子がいた。1980年代から、産児制限が中国の国家政策だった。子どもたちはコンドームの風船で遊んでいた。

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逞しい種羊が連れてこられて種付けをする。2年間も子羊を産まなかった雌羊は業者に売られ、解体されて食肉となる。生きてゆくために生殖が必要なのは羊も人も同じだった。

 

ドルカルの妹シャンチュはある恋愛関係の痛手から尼僧となっていた。その相手は長男が通うチベット語学校の教師だった。教師はシャンチュとの恋愛を小説にした。その本をシャンチュに贈るが、姉のドルカルは火の中に投げ込んでしまう。

 

ドルカルは妊娠して診療所の女先生に相談にいく。罰金をとられた上に、子どもが4人になると充分な教育も出来ず、暮らしていけないとドルカルは中絶を決心する。

そんな折、夫の父親が亡くなり、チベット仏教の高僧は今度生まれてくる子供に転生すると言う。ドルカルが中絶すれば父親の魂が彷徨ってしまうとタルギュは中絶に反対だった。

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父親の魂はまるで赤い風船となって空高く舞い上がってゆくようだ。それを見上げるチベット族の人たち。

 

時代の変化とともにチベット族の伝統や文化が失われ、やがて中国にのみこまれてゆくのかもしれない。