自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

削除することから名作は生まれる

2016年、イギリス、アメリカ、マイケル・グランデージ監督

1929年、大不況のニューヨーク、ヘミングウェイフィッツジェラルドの小説を出版してきた名編集者のパーキンズの元に無名の作家トマス・ウルフが膨大な原稿を持ち込んでくる。

 

パーキンズは「人生で一人、会うかどうかの作家」だとその才能に驚きウルフの処女作「天使よ故郷を見よ」を出版し、それはベストセラーになる。それぞれの妻や恋人に反対されながらも二人の篤い友情は終生続く。

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ウルフはあふれるように出てくる言葉を抑えることができず、彼の小説はあまりにも長すぎた。パーキンズは何ページにもわたる文章のほとんどを削除し簡単な言葉で書き直してゆく。

そして完成した文章がこれだった。「ユージンは女を見た。その瞳は青い。あまりにもはやく恋に落ちたので、恋の音を誰も聞かなかった」

 

文章を際立たせるのは単純さだった。

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しかし「君の作品をゆがめた気がする」と編集者はいつもその不安にとりつかれる。

 

パーキンズは「かつて私たちの祖先は身を寄せ合いながら闇を怖れていた。闇を怖れない物語を書いてくれ」ウルフはそんな物語を書こうとする。

 

ウルフは1938年、37歳の若さで亡くなる。死の直前にパーキンズに手紙を送る。パーキンズは食事中も帽子をとることはなかったが、その手紙を読むとき、初めて帽子をとった。