たまたま読んだ雑誌に作家の松原惇子の短いエッセイが載っていた。
コロナ禍でかかりつけ医を探していた松原はある医者のもとを訪ねる。その医者はパソコンを見ながら話すのではなく、患者の目を見ながら話していた。
松原は信頼できる先生だと思った。
異常はなかったが、松原は血液検査をお願いした。遺伝なのか、若いころからコレステロール値が高かったからだ。
医者は「うーん、悪玉が多いね、松原さんは74歳でしたね。」医者が見ていたのは平均寿命表だった。「74歳ということは、女性の平均寿命が88歳なので、あと14年・・・」
突然、余命14年を宣告されたようだった。「これからの14年をどう生きたいかってことですよ。薬を飲んで長生きしたいのか、それとも数値のことは忘れて、楽しく生きたいのか、あなた次第です」
松原は嬉しくなった。
答えは決まっている、今年の誕生日で余命13年になる、人のことに関心をもつ時間はない、と松原は思う。
松原の「嬉しくなった」という気持ちが少しわかる。いろいろな呪縛から解き放たれて自分にとって何が大切なのかが見えてくるような気がした。
ちなみに男性の平均寿命は82歳。