星野は1952年千葉県市川生まれ、86年アニマ賞、90年木村伊兵衛賞受賞、96年カムチャッカにて逝去。変わりゆくアラスカを写真と文章で記録していった。
魅力的な33篇のエッセイ集だ。いや何よりも星野の生き方そのものがじつに魅力的なのだ。便利で快適な生活に満足する私たちとは違う価値観があり、違う豊かさがある。
星野は16歳の時、三か月間のアメリカへの旅に出た。
「ぼくが暮らしているここだけが世界ではない。さまざまな人々が、それぞれの価値観をもち、遠い異国で自分と同じ一生を生きている」
「旅をする木」とは一羽のイスカがトウヒの木に止まり、ついばみながら落としてしまう幸運なトウヒの種子の物語、川沿いの森に根づいたトウヒの種子はいつしか一本の木に成長する・・・
「かつてハイダ族は、トーテムポールの上をくり抜いて人を埋葬していたのである。ある日、その上に偶然落ちたトウヒの種子が、人間の身体の栄養を吸収しながら根づき・・トーテムポールを養木として成長した」
「その入り江に、一人の世捨て人が住んでいた。たった一人で、二十二年間、リツヤベイで暮らしていた」
「痛いほどの孤独と向き合わなければならない。でも、ある時そこを突き抜けてしまうと不思議な心のバランスを得る」
彼は極北の自然の中で生きる野生動物、クマやオオカミなどを畏敬していた。皮肉なことに星野はクマに襲われて43歳で亡くなった。
「彼の人生が平均より短かったとしても、そんなことに何の意味があるだろう。大事なのは長く生きることではなく、よく生きることだ」と池澤夏樹は書いている。