自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

風船 1956年

人生は風船のように

日本、川島雄三監督

戦後11年、東京、カメラメイカーの社長として成功した村上春樹は妻房子、息子圭吉、娘珠子と高台の豪邸で暮らしていた。

 

珠子は子どもの頃に小児麻痺にかかり、左手が不自由で身も心も弱かったが、純真な娘だった。そんな珠子を兄の圭吉と母の房子はバカにしていた。圭吉は愛人の久美子と破局寸前だった。彼には新しい愛人ができたのだ。

春樹は京都で戦時中、世話になった人の娘と息子に会い、貧しいがその飾らない暮らしに惹きつけられる。京都国立博物館、八坂神社、格子戸の町屋、狭い路地、盆踊り、地蔵盆がノスタルジックに描かれる。

小津安二郎川端康成など映画人や文豪が贔屓にしていた京都木屋町の伝説のバー「おそめ」のマダム上羽秀も本人役で出演していた。

最初はどこか焦点の定まらない物語だと思っていたが、徐々に焦点が合ってゆき、ラストはカメラのピントがピタリと決まった見事なシーンだった。

 

原作大佛次郎、助監督今村昌平、撮影高村倉太郎、音楽黛敏郎、衣装デザイン森英恵。出演は森雅之三橋達也新珠三千代芦川いづみ北原三枝左幸子・・というもので名作とは言えないが、50年代の日本映画全盛期の「職人技」を感じさせるいい作品だった。

今の日本映画に欠けているのはこの「職人技」かもしれない。