自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ある歌い女の思い出 1994年

初めてのチュニジア映画

チュニジア、フランス、ムフィーダ・トゥラートリ監督

チュニジア、歌手のマリヤは自分を実の娘のようにかわいがってくれた皇太子のシド・アリが亡くなったことを知り、10年ぶりに王宮を訪ねる。

そこにはもう1950年代の栄華はなかった。彼女は過去の出来事を回想する。

マリヤの母ケディージャは10歳のとき、王宮に売られて、それ以来、王宮の外へ出ることは許されず、召使として働いてきた。そしてマリヤを産んだのだった。マリヤの父親は誰だかわからなかった。

 

王宮で暮らす召使や炊事係の女たちには掟があり、それは沈黙だった。自分の身に何が起ころうとも沈黙するしかなかった。

 王宮の外では独立運動が激しくなっていた。フランス軍との戦いで多くの血が流されていた。王宮の女たちはその様子をラジオで聞くだけだった。マリヤは独立運動の歌を熱唱し、王宮を去っていったのだ。

 

そして今、歌手となったマリヤも妊娠しており、男に堕胎するように言われていた。イスラム文化の中で生きる母と娘、二代にわたる女性の哀しみが描かれる。

 

マンドリンのような楽器ウードの音色にのせて流れるチュニジアの歌が心に残った。それはどれも恋の歌だった。当時の女たちの希望は恋だけだった。