自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

村上春樹、川上未映子「みみずくは黄昏に飛び立つ」

 

真実を語るための嘘は嘘でなく物語になる

家に例えると、一階はみんながいる団らんの場所、二階はプライベートなスペース、地下一階にはなんか暗い部屋がある。日本の私小説が扱っているのはこのあたり。

この家にはさらに地下二階があってここが村上の小説の世界。意識下の世界であり、井戸の世界。だから村上作品は意味が分からなくても、身体の中に沁み込んでくる。

 

クリントンは一階に通用することを言って負けて、トランプは地下室に訴えることだけを言いまくって勝った。

原始時代、みんな洞窟の中で共同生活を送っていた。日が暮れると外は暗くて怖い獣がいる。寒くてひもじくて心細くて・・そんな時、語り部が出てくる。焚火をかこんで大人も子供も目を輝かせ物語に引き込まれてゆく。私たちはその子孫だ。

 

そして「悪しき物語」を超える「善き物語」を求めている。物語には大きな力がある。

 

物語の仕掛けとか、登場人物の構造とかはあるが、なによりも文章と文体が大事。文章を通して世界を見て、文章を書くことで自分を知る。

 

ヘミングウェイは「退屈でつまらない答えで申し訳ないけれど、退屈でつまらない質問にはそういう答えしか返ってこないんだよ」と言った。

川上未映子は退屈でつまらない質問をしなかった。そして村上春樹も退屈でつまらない答えをしなかった。

「いやいや、退屈しているような余裕はまったくありませんでしたよ、ヘミングウェイさん」