自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

スウィート・シング 2020年

世界は悲しいけれど幸せな一日はある

アメリカ、アレクサンダー・ロックウェル監督

特に好きな映画でもないのに、どうしてもレビューしたくなる作品がたまにある。インディーズ映画「スウィート・シング」はそのような作品だった。

マサチューセッツ州で暮らす15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコ。優しい父アダムは酒を呑むと人が変わったように横暴になる。母イヴはそんな夫に愛想をつかし、ポーという暴力的な男と暮らしていた。

父アダムがアル中の治療のため病院に強制入院させられると、ビリーとニコは母の元に身を寄せる。ところが一緒に暮らしているポーは変態男だった。

海辺でビリーとニコは少年マリクと出会い、3人は自由になれる場所への逃避行を始める。彼らには宝物のような一日があった。

16ミリフィルムのザラザラした映像の中に鮮やかな色彩の映像がところどころに差し込まれる。ビリー・ホリディの歌が流れる。ポップな音楽が聴こえてくると自然と身体が揺れる。ビリー役のラナ・ロックウェルが少しハスキーな声で歌う。

「♪・・もう僕は年老いたりしない 雨の庭を歩き 話し続けるんだ 愛しい君よ(スウィート・シング)・・♪」

ざらついた映像と魂を揺さぶる歌がこの映画を忘れられないものにしている。