自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

中井久夫「戦争と平和 ある観察」初出は2005年

中井は1934年奈良県生まれ、2022年逝去、精神科医、専門は精神病理学

人類がまだ埋葬していないものの代表は戦争である。戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。戦争の酸鼻な局面をほんとうに知るのは死者だけ。

 

戦争が「過程」であるのに対して平和は無際限に続く有為転変の「状態」である。だから、非常にわかりにくく、目にみえにくく、心に訴える力が弱い。平和は維持であるから唱え続けなければならない。

 

戦争における指導層の責任は単純化される。失敗が目に見えるものであっても、思いのほか責任を問われず、むしろ合理化される。指導層が要求する苦痛、欠乏、不平等は民衆が受容し忍耐するべきものとして倫理性を帯びてくる。表面的には道徳的となり、社会は平和時に比べて改善されたかに見える。

 

戦争開始直後には反動的に躁的祝祭的雰囲気がわきあがる。「ついにやった、ざまあみろ」「やられる前にやれ」成功した戦争は数少なく後遺症は予想外に永続的である。戦争は錯誤の連続。かつて「東洋永遠の平和」のための戦争があった。

 

人は平和よりも安全保障感を求める。「安全の脅威」こそが戦争準備を強力に訴えるスローガンになる。

 

クラウゼヴィッツ型戦争(正規軍同士の戦い)はせいぜい3カ月で戦争を終わらせるという理想型であり、実は願望思考の産物である。

 

積極的な平和構築が念頭にない戦争準備は時には戦争を呼ぶ。