自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

僕が跳びはねる理由 2020年

自閉症者の世界を映像で見る

イギリス、ジェリー・ロスウェル監督、82分

自閉症の作家、東田直樹が13歳の時に執筆し、世界30ヵ国以上で出版されたエッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」を原作として、イギリス、インド、アメリカ、シエラレオネに暮らす5人の若者たちの姿やその家族の証言を通して、自閉症者の世界を描いたドキュメンタリー。

彼らは意思を伝えることが大事だというのは分かっている。でもメッセージを伝えようとして口から出る言葉はメッセージとは違うものになってしまう。

まるで壊れたロボットを操縦しているようだ。

「いつか息子の見ている世界を10秒間だけでもいいから体験してみたい」と父親が語る。親でさえ子供の内面を理解できなかった。

しているようだ。言いたいことを言葉にできない苛立ち。

普通、記憶は時系列で線のようにつながっているが、彼らには点のようにバラバラに存在している。だから彼らにとっては10年前の記憶も昨日の記憶も変わりない。

 

フラッシュバックで過去の記憶が蘇り、それがリアルタイムで起きていることのようになり、パニックに陥って奇声をあげたりする。

私たちは全体を把握してから部分に目がいくが、自閉症者はまず部分に目がいってしまう。もしかしたら彼らは世界を全体として把握しているのではなく、「部分の集まり」として捉えているのかもしれない。

 

彼らが文字盤を使って意思疎通する姿は、驚きに満ちて、しかも豊かな知性さえ感じさせる。