自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

沢木耕太郎「深夜特急」

70年代、26歳の沢木は香港からロンドンまでのユーラシア大陸横断の一人旅に出た。その当時の記録。いつ読んでも引き込まれる私の愛読書。

インドのカルカッタ、サダル・ストリートでは物乞いをする子どもたちがいた。

 

「弟を小脇に抱えた男の子が眼の前に立ち、無言で手を差し出す。・・ほとんど感情のこもらぬ眼でじっと私を見上げる。私はたまらずまた歩き出す。彼は手を差し出したまま、黙ってついてくる」

 

「七、八歳の少女についてこられたことがある。・・小銭をあたえようかな、と立ち止まった。すると少女が小さな声でひとこと言う。『十ルピー』物乞いに金額を指定されたのは初めてだった。

しかも十ルピーといえば大金だ。首を振って歩き出すと、慌てて私の眼の前に廻り込んで、言い直した。『六ルピー』私が首を振ると、やがてそれは五ルピーになり、四ルピーになり、三ルピーになった」

 

「その時になってやっと意味が分かった。少女はその金額で自分の体を買ってくれないかと言っていたのだ。彼女がそのような申し出をするからには、どこかに必ず買う男がいるのだろう」

 

「私は少女に三ルピーを手渡し、グッドバイ、といってそこを離れた。だが少女は私のあとについてこようとする。・・・仕方なく、走るようにしてそこから遠ざかった」