ありきたりの物語だが、心に沁みわたる作品
アイルランド、コルム・バレード監督 95分
1980年代初頭のアイルランドの田舎、大家族のなかで孤独で寂しく、口数も少なく暮らす9歳の少女コット。父親は飲んだくれのギャンブル好き、母親が出産するまでの間、夏休みを親戚のキンセラ夫婦、夫ショーンと妻アイリンの農場で過ごすことになる。
最初は慣れない生活に戸惑うが、髪を梳かしてくれる優しいアイリンやさりげなくお菓子をテーブルに置いてゆくショーンとの愛情たっぷりの暮らしの中で生きる歓びを感じ。自分の居場所を見つけてゆく。
牛の世話をするコット、郵便受けを目指して並木道を走るコットの姿は溌剌としていた。
隣人の通夜に行き、コットは初めて死人を見るという経験をする。近所のおばさんからアイリンとショーン夫婦には一人息子がいたが、事故で亡くしたという話を聞く。それが夫婦に暗い影を落としていた。コットは新しい世界を知ってゆく。
素朴で変化のない物語でありながら静かな余韻が響く珠玉の作品だった。セリフは抑えて人物描写で見せていた。美しい自然風景、光の描写、濃い緑、水の反射。あの家で過ごした愛おしい時間。何よりも感動的なラストシーン。
誠実に撮られた良心的な作品だ。