夢なのか現実なのか
日本、吉田大八監督 108分
筒井康隆の同名小説を映画化。
大学教授の職を辞めて10 年、妻に先立たれた77歳の渡辺儀助は祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分で作り、晩酌を楽しみ、たまにわずかな友人と酒を飲み交わし、教え子を招いてディナーを振る舞ったりする。
講演や執筆料でわずかな収入を得ながら預貯金があと何年持つか、何年生きられるかを計算しながら、日常は平和に過ぎていった。

もうやり残したことはないと遺言書を書いたそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。「敵がやって来る」というメッセージによって少しずつ狂い始める儀介。現実と妄想が入り混じる中で、儀介は「敵」とは一体何なのか、そして自分自身の人生と向き合うことになります。
「敵」とは老いと死の恐怖の事ではないだろうか。

いつしかひとり言が増えた儀助の徹底した丁寧な暮らしにヒビが入り、意識が白濁し始める。やがて夢の中にも死んだ妻が頻繁に登場するようになり、日々の暮らしが夢なのか現実なのか分からなくなってくる。「双眼鏡を覗くと人間の醜さが分かる」という言葉があった。ラストシーン、自宅の葬儀の式場で親戚の男は死んだはずの儀介の影を見てその思わず双眼鏡を落とす。
静かで不穏な雰囲気や、次第に狂気に陥っていく主人公の心理描写が評価されている。
この映画は前半パートでは儀助の丁寧な日常を描き、後半では現実と虚構が入り混じり儀助が壊れていく様子が描かれる。
第37回東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀男優賞、最優秀監督賞を受賞した。モノクロ映像のホラー的な怖さが新鮮だった。