時代劇を残したい
日本、安田淳一監督 131分
幕末の京都、寺の前。会津藩士の高坂新左衛門は長州藩士を討つよう密命を受けるが、長州藩士の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。
新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、茫然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、時代劇の「切られ役」で現代に生きていこうとする。
撮影には東映京都撮影所が全面協力したという。

斬りあった長州藩士の男、風見恭一郎は高坂より30年早い時代にタイムスリップしていた。俳優として成功し、10年前に時代劇から去っていたが、今回復帰するという。それは高坂のことを知ったからだった。二人の葛藤は今もなお続いていた。
時代劇は殺陣だけではないが、時代劇へのリスペクトが感じられる作品だった。

この映画のそもそもの面白さは、侍がタイムスリップして現代にやってくるというSF的な発想にある。現代の撮影所に突然タイムスリップしてやって来た江戸時代の武士・高坂新左衛門=ホンモノの侍が、映画やドラマの中で斬られて死んでいく侍役をいかにうまく演じるかで苦心奮闘するのである。
周囲の人間は、彼がホンモノとは露知らず、斬るフリ斬られるフリをする殺陣を懸命に駆け出しの彼に教え込もうとし、高坂自身も真摯にその演技を磨こうとする。
時代劇なのか現代劇なのか分からないが、どこか可笑しさにあふれた作品だった。
低予算映画でありながら日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。