自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

声/姿なき犯罪者 2021年

韓国の振り込め詐欺の実状

韓国、キム・ソン キム・ゴク監督 109分

元刑事のソジュンが働く釜山の建設現場で詐欺事件が起こった。ソジュンの妻は振り込め詐欺で大金を奪われ、建設現場の社長は30億ウォンをだまし取られた。多くの人たちが詐欺の犠牲になっていた。

ソジュンは詐欺犯を追いかけ始め、手掛かりをつかむ。詐欺集団の本拠地は中国の瀋陽にあった。潜入捜査のように元刑事のソジュンは詐欺組織に入り込んでゆき、警察もその後を追ってゆく。

詐欺組織の主犯クァクのもとで実に多くに人たちが詐欺に加担していた。冷酷なクァクは「詐欺とは人の痛みを食い物にする商売だ」と高笑いする。

新たに300億ウォン規模の詐欺計画が企てられていることを知ったソジュンは阻止しようと危険な行動に出る。

 

前半は巧みな詐欺の実態が紹介される。その手口は実に巧妙で完璧な台本にそって進められる。誰もが騙されてから初めて呆然とする。

後半に入ると俄然アクションシーンが増えてきて、痛快な娯楽映画に変わっていった。

離ればなれになっても 2020年

40年にわたる愛の軌跡

イタリア、ガブリエレ・ムッチーノ監督 135分

1982年、ローマ、16歳のパオロ、リッカルド、ジュリオの3人の少年は青春を謳歌していた。同級生の少女ジェンマ(宝石という意味)はパオロと恋に落ちる。

しかしジェンマは母が亡くなり、伯母に引き取られナポリに移り住んでしまう。

1989年、3人の少年たちはそれぞれが教師、俳優、弁護士として社会に出ていたが、久しぶりに会ったジェンマは自由奔放な生活を送り、大きく変わっていた。

 

いつしかジェンマはうだつの上がらない臨時教師のパオロと別れ、弁護士のジュリオと愛し合うようになる。パオロはショックで傷心の日々を過ごす。

 

1982年から2022年までの40年間、「ベルリンの壁の崩壊」や「911のテロ」などが描かれ、大河ドラマの雰囲気を醸し出してゆく。

4人はそれぞれの道を歩んでゆく。過ちを犯しながらも波乱万丈の人生だった。時代に翻弄されながら出会いと別れを繰り返す4人。みんな離ればなれになってゆくが、人生の先には誰がいるのか、何が待っているのか。

 

やがて4人は大みそかの夜に全員が集まる。50代半ばになった4人はそれぞれが親になり息子や娘がいた。大いなる人生賛歌の作品。

マジェスティック 2001年

リアルな赤狩りとファンタジックな映画館

アメリカ、フランク・ダラボン監督 153分

1951年、「赤狩り」が猛威を振るっていた時代。新進脚本家のピーターもその渦に巻き込まれてゆく。ピーターはある日、自動車事故で記憶を失ってしまう。

 

たどり着いた小さな町ローソン、この町では多くの若者が戦死して、町の人たちに大きな傷を残していた。ピーターは戦地で行方不明となっている青年ルークと間違われ、英雄として大歓迎される。町は「青年ルーク」という希望を必要としていたのだ。

彼を息子だと信じた老人ハリーは老朽化した映画館「マジェスティック」の再建にピーターと共に取り組んでゆく。

一方、非米活動委員会とFBIはピーターが共産主義者であり、逃亡したと思い込み、行方を捜し始める。

この映画にはダラボン監督の「赤狩り」での苦い体験が盛り込まれていた。非米活動委員会の証言でピーターは「自由なアメリカ」のために戦死した若者たちに恥じないような国であるべきだ。だから「赤狩り」は間違っていると訴える。

 

ピーターが合衆国憲法の修正第一条を掲げて証言するシーンは、映画「ゾラの生涯」の見事な法廷シーンを彷彿とさせた。